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A Light : No.3 others 《All over.》 [Livly長編;ALight]

その他目線の第3話。
ダークさんの反応がギャグですが、突っ込まないでくださいね!!

リヴリーポリスの留置施設。
薄暗いその廊下の向こうから、何者かが歩いてくる足音がする。彼女はそれに耳を傾けている。
足音は彼女の独房前でピタリと止まった。見知ったその顔は、檻の中で大人しく座った彼女を無表情のまま
見つめ、そのまま口を開く。
「桃夜、逃げましタ。マァ、賢明な判断ですヨネ。捕まる事が分かってイテ、残るあほうは居ませンカラ」
彼女は黙ったままだ。
足音の主は相手の出方をしばらく観察しているようだったが、じきに諦めた。
「ピンの居場所、リンプに教えたデショ?ホオン」
彼女は―ホオンは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「はい。ダークヤグラ総隊長」
「何故そんな事をシタノカ…小生には騙し打ちのヨウナ事しか思い浮かばないのデスガ」
ホオンは静かに首を振る。檻の中に置かれた丸椅子に座って。これは彼女を捕まえた時、
手伝いを要請した実動班の誰かが気遣いを示したものだろう。
確かに、「データーゴーストのスパイ」にしては酷く儚げな彼女は見ていて心配になる。
「『自供』です。私の意思で、リンプさんに情報を…」
「意思にシロ、何にシロ、何故?」
ほんの一瞬、ホオンは天井を仰いだ。神に救いを求めるように。
しかし、自分にはもう信じる神は居ないとでも言うように、また真っ直ぐにダークヤグラを見つめた。
「ピンさんの記憶喪失は桃夜君の話を聞いているとかなり弱いもので、ちょっとしたショックで記憶は元に戻るのではと思いました」
「ちょっとしたショック?リンプが殴ったリ、リンプが蹴ったリですカ?」
「ピンさんが『ピン』だった時の知り合いに会えば。っていう意味だったんですけど…まぁリンプさんなら1発くらい殴ってしまっているかもしれないですね…」
楽しい思い出話でもするように、ホオンはクスクス笑った。
普段、はぐらかす役割である自分がこうしてはぐらかされているのはしっくりこないと、
ダークヤグラは眉をひそめる。
「まぁ、何にしてもとにかくピンさんには目覚めていただかなくてはいけなかったので」
「…?」
「ギハ君の中のメビウス様が『覚醒』したようです。ヒムさんからは―私が裏切りを謀ったのに気がついたんだと思いますが―連絡は何もありませんけど。この感覚、身体がざわめく感じ。間違いないかと…」
「何…でスッテ…!?」
久しぶりに全身から冷や汗が流れる。手足が震える。
自分が消そうとして消せなかった「悪夢」が再び迫ってくる。
「…それデハもう…もうコノ世界ハ…」
「落ち着いてください。ダークヤグラ総隊長。―そのための、ギハ君とピンさんなんです」
敵であったはずの存在になだめられる。とことんおかしい状況にダークヤグラは頭の中がホワイトアウト
しかけた。そのまま気絶でもできれば楽だったのだろうが、それは己のプライドが許さない。
ギリギリの状況で彼はこの悪夢のような現実にとどまっていた。
「…大丈夫ですか?」
「…何ですカ?そのためのギハとピンとハ?」
「言ってしまえば、この世界を救うための『鍵』はギハ君とピンさんの『絆』なんです」
「―『絆』、デスッテ?」
ホオンの言葉はすでにダークヤグラの頭では考えることのできないものになっていた。
世界を救うのがあの2人?何だかんだ言っても「普通」のポリス隊員なのに?
しかも「絆」が世界を救うだなんて、そんなおとぎ話のような事…
「…イヤ、彼ら2人の存在コソ、おとぎ話なのカ…」
世界を滅ぼすかもしれない魔王を身体に宿す少年と、消されかけた存在を呼びもどした青年。
異端であると同時に、奇跡的な存在。
「ギハ君がピンさんを想う気持ちが強い程、メビウス様の覚醒は薄れていく。
ピンさんがギハ君を想う気持ちが強い程、その実在するリヴリーからの力が『ゴースト』の封印を
より強固にする。2人の絆が鍵になる―まるでおとぎ話みたいです。でも―」
「デモ?」
ホオンは少し考えるようにうつ向くと、そのまま小さく呟いた。
「『絆』によって命運が左右されてしまうこの世界も…とてもおとぎ話じみてはいませんか?
そう考えると突飛な話でも、信用できてしまう気がします」
ダークヤグラは黙ったまま回れ右をすると、元来た方を向き歩きはじめた。
白衣のポケットから、不自然に鍵束が落ち、それをこれまた不自然に右足が蹴った。
鍵束はそのまま檻の中に滑りこみ、ホオンの足にしゃら…と当たって止まった。
ホオンは慌ててダークヤグラを呼び止めようとした。
しかし。
「アー、鍵束が見つかりませんネェ。ドウシヨウカナー。コノママジャ、世界を守ろうとする変わりモノの
『ゴースト』を止められないですネェ。イヤー、困っタ。本当に困っタナァ!」
わざとらしく言いながら、右手人差し指はそのまま唇の方へ持って行かれる。
全てを察したホオンは慌てて立ち上がり深々と礼しようとしたが―考え直して右手を頭の上に持っていき、
『敬礼』の体制をとる。
歩いていくダークヤグラは後ろ向きのまま、右腕を大きく2回だけ振って、そのまままた歩きだした。

データゴーストアジト内の神殿にたどり着いた桃夜は興奮した顔をしていた。
「いよいよだね!」
そこに共に潜入していた相棒が捕まったことを憂いる表情は無い。
ましてや彼の目の前―半径1メートルはあるであろう巨大な丸底フラスコの中に詰め込まれたリウリーたちの『魂』に申し訳ないと感じている様子など皆無である。
その前に立つそひや桐衣も同様だ。
「よくもまぁ、これだけ集めたよね?さすが桐衣」
「え、ちょ、桃夜君?」
「…そーだなァ桃夜。結局ピンの魂持って来れなかった俺とか、スパイがバレてとっ捕まりかけたお前なんか
より、はるかに桐衣は優秀だよなァ~」
「そひ君!」
「スパイがバレたのは僕のせいじゃなくてホオンのせいだよ?…そんな事も理解できてないなんて、
どっかデータがバグってるんじゃないの?」
「桃夜君もっ!」
「…そういや、いつかの決着がまだついてなかったよなぁ…」
「…そひ、意外としつこいね。嫌われるよ?女の子から」
こんな時に睨みあいをはじめる2人に呆れながらも、桐衣は声をはりあげた。
「二人とも!いい加減にしてっ!」
「相変わらず、変わらないのですね。そひ。桐衣。桃夜」
驚き、黙りこんだ3人は、フラスコのすぐ後ろに現れた「彼女」の方を向く。
「変わらないというのは、良いものですね。変わらずに…私の居場所があるというのも」
小さなハチを右肩に乗せフラスコの向こう側から現れた「彼女」は嬉しそうに微笑んだ。
姿も声もまだ少年のものだけれど、それでも、その身体から溢れ出てくる、自分たちを高揚させる力は
明らかに「彼女」のものだった。
「彼女」の背後に寄り添うようにして立つヒムも、久しぶりに笑顔を見せている。
「彼女」―メビウスが戻ってきたのだ。自分たちの元に。歪まされた姿ではあるけれど。
「…ただいま帰りました。ご心配をおかけしてすみませんでした」
メビウスが本当に申し訳なさそうにぺこりと頭を下げた。
「…心配、しました」
桐衣の瞳から涙がこぼれ落ちる。
「ホントに。マジ大変だったんですから。色々と」
さりげなく桐衣の肩を軽く叩いて慰めながら、そひは憎まれ口をたたく。
「…僕なんか、近くに居たのに何もできずにもどかしい気分でしたよ」
桃夜の言葉にメビウスは「すみません」とまた謝る。さりげなくそひが睨んでくる。桃夜が睨み返す。
桐衣は涙を拭いながら溜め息をつく。
「もう…」
そんな3人の様子を見つめて、メビウスが微笑む。それからふっと後ろを振り向いたメビウスはフラスコに目を
やる。
「ヒム…」
「どうかしましたか?メビウス様」
「この『魂』は?」
ヒムは一瞬だけ言葉に詰まったが、すぐに口を開いた。
「メビウス様の身体の再生をするために『拾ってきた』ものですよ…無駄にされていた『魂』です。
役立てればきっと浮かばれるでしょう」
「そう…ですか」
メビウスの返事には妙な固さがあったが、あえて気にしない事にしたヒムは、メビウスに部屋に戻るよう促す。
「起きたばかりなので、無理は禁物です」
「ヒムも変わりませんね」
そう楽しそうに言って、メビウスは祭壇の上にある隠し通路へと向かう。
付いて行こうとするヒムに「1人で行けます」と言って、そのまま通路の中へ消えていった。
彼女の姿が消えてもなお、その方向を眺め続けているヒムの背中に桃夜が話しかける。
「『無駄にされていた『魂』を拾ってきた』…良い表現ですね」
「桃夜、それは嫌味か?…間違いではないだろう」
「ま、メビウス様が居なくなった途端に離れていったような連中だし。ホントならギッタギタにしてやりたい
所だけどな」
「自分の意思を貫かないでニンゲンに与えられた世界を享受するなんて…『魂』の無駄です」
冷めた口調で4人はフラスコの中身を眺めた。かつて共に新たな世界を築こうとした仲間のなれのはてを
眺めた。
「だからせめて―こうして有効に使わせてもらわないとね…」
ヒムがフラスコにそっと右手の手のひらを乗せる。
ガラスはひやりと冷たい。中身の『魂』を逃さないための氷の檻のようだった。
「…そういえば、ヒムさん。何でピンを連れてくるように言ったんですか?」
「嫌がらせ」
「…はい?」
にっこり笑って答えたヒムに、そひが気が抜けたような声をあげる。
ヒムはぺたぺたとフラスコを触り続ける。
「自分の大切な存在を造り替えられる気分を体感してもらおうかなとか思っただけだよ」
「…本当に、ただの嫌がらせ…?」
「それ、俺別に自己嫌悪に陥る必要なかったんじゃ…?」
「―…ま、何はともあれ…」
桃夜がとりなすように言った。話が先に進まない、ということだろう。
「これでまた全てが動きますね。メビウス様が戻ってくれば、リヴリーアイランドの切り離しも、
モンスターの支配も、絶対的に自由で永遠の命も…」
未来の希望―本来の彼らの目的が、再び目前に、手が届く距離へ近づいている。
3人の瞳には、隠しきれない希望の光が溢れている。
ヒムはそんな彼らを見つめている。
先刻、フラスコの中身を見たような、そんな瞳で。
そして、心の中で、彼自身のために呟いた。
「これで、全て―」
これで、全てが終わる。 何もかも、全てが。

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