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A Light : No.4 [Livly長編;ALight]

物語の事実上の「最終話」。
この後に後日談、そして真の最終話としての「No.5」が続きます…

…この話、真面目に計算してみたら、文字数1万越えでした…
So-netブログ、文字数制限無いんすか…?

《リウズ島 文化の街・トウホクの某デジタルピクチャー専門店》
「あらぁ?おかしいなぁ」
ハナアルキの男店長がすっとんきょうな声をあげる。その声をきいたバイトのクロメの若い女の子が、
怪訝そうな表情で、保管庫から出てくる。
店長は1つの額縁の前で困ったようにその細い顎に手をやっている。
「どーしたんっすか?テンチョー」
「いや、ここに入ってたピクチャー知らない?」
店長が指差す額縁の中には確かに何も入っていない。
「あーホントだ。テンチョー、ひょっとしてはじめから入ってないとかはー?テンチョーがボケてるって展開で」
「失礼だな君は。今朝入れたばっかり…」
店長は何気なく空の額縁の横に目をやった。そして言葉を失った。
その額縁も、空だった。
「テンチョー!」
バイトの悲鳴があがる。振り向いた彼はとんでもない光景を目撃した。
額縁の中のありとあらゆるピクチャーが、次々とデータの破片として飛び出していく。
抜け出ていったデータはまっすぐ地下に潜っていく。
「な…何だ!?これ…」
「テンチョー!これ夢?これ夢!?」
外から悲鳴があがる。
2人は外にとび出す。
アーケードに立ち並ぶ店という店が、少しずつデータの破片として地下に潜っていく。
たくさんの店主が、店員が、客たちが、とび出してくる。
パニックで泣き崩れている者がいる。
わめきちらしている者がいる。
祈るように膝まづき、両手を重ねる者がいる。
「わっ!わぁぁぁっ!?」
二人のすぐそばに立っていた少年姿のムシチョウが空を仰いで腰を抜かす。
空を見上げたリウリーたちは、皆一様に目を見開いた。
「つ…月が…」
紺色の空の頂点に浮かんでいた満月。
消え去るはずがないものがサラサラと少しずつ消え去っていく。
金色の砂のようなデータの破片が街にふりそそぎ、やはり地下に潜っていく。
「テンチョー…」
心細げにシャツの袖を引っ張ってくるバイトの肩を、守るように抱きながら店長が呟いた。
「何が…何が起ころうとしてるんだ…?」
砂が雪のように降り注ぐ。

《トウホク ・本屋通り》
パニックになったリウリーたちの群れをかきわけながら、俺たちはヒムの本屋に向かっていた。
「これ何が起こってるの!?ピン!軍曹!」
「『復活の儀式』とやらの影響かもね」
リンプがリヴリーたちのパニックを苦い顔をして眺めている。
「予想だけど奴ら…っていうか奴らの一部が考え方変えたのかも。だってそうじゃなきゃこんな風に
リヴリーアイランドがボロボロになるとか、奴らの目的に沿わないようなことするわけない」
確かに。色々なものがデータの破片となり、消滅しかけている。
でもどうして目的を変えて破壊なんて―
「…まさか」
「どうしたの?ピン」
ラクーンドックが不思議そうに尋ねてくる。
「破壊が目的ってワケじゃないのか…?」
「はい?何それどういうこと?」
「その目的を達成させることでリウリーアイランドは破壊されてしまう。でも、自分は『その目的』さえ達成
できれば良い。他のものはどうでもいい。―そう思ってるやつが居るはずだ。データーゴーストの中に」
「そんな!…でもそれ本当なら、他のものがどうでも良くなるようなものって…?だってデーターゴーストの
目的ってその…どれもこれも魅力的なものじゃない?」
「…だよなぁ」
俺達3人は黙り込んだ。リンプもラクーンドックもそれぞれに何かを考えているようだったが、
結局よく分からないらしい。もちろん俺もだけど。
デートーゴーストの目的以上に大切なものって、一体なんだろう?
「絆―…」
「は?」
「軍曹?」
「いや…」
リンプは少し首をかしげてつぶやく。
「そういえば…『絆』が重要になるって…ホオンが言ってたっけ…」
『絆』って…んな熱い展開の少年マンガじゃあるまいし…
さらに追及してみたいと思ったが、そうこうしてたらいつの間にか到着していた。
木造2階建ての古本屋。データーゴーストのアジト。
ここにギハが、瑠姫がいる―
「おい。リンプ、ラクーンドック。着いたぞ」
「え?」
古本屋を指差す俺を2人は不思議そうな顔で見ている。
「…着いたってどこに?」
「…いやだからデーターゴーストのアジト…」
「何もないじゃん」
リンプがはっきりと言った。どういう事だ…?ひょっとしたら普通のリヴリーには見えないような仕掛けが
あるのかもしれない。だとしたら俺にどうして見えるのかっていうことが分からない。
分からないが今はそんな事考えこんでいる場合じゃない。そう思って木の引き戸を無理矢理開いた。
ガララッ!という耳障りな音が響くと同時に2人の目に驚きが浮かぶ。どうやら見えたらしいな。
「…何、コレ?」
「うそ…」
俺は迷いなく、2人はいきなり現れた建物におそるおそるといった風に、中に入った。
店の中は俺が最後に見た時と変わって無いように見える。天井までの高さの本棚が、部屋じゅうに等間隔で
並んでいる。中には様々な種類の古本が詰め込まれている。
1ヶ所、広くなっている通路がある。そこから暗闇にまぎれて旧式のレジの乗ったカウンターが見える。
ヒムが座っていたカウンターだ。
あの日、はじめてギハとこの店に入った時は、まさかこんな事になるとは思わなかった。

捻じ曲げられたこと全てを元に戻す、のは難しいだろう。
それでも―
「瑠姫、今、助けるから」
「ギハ、もうちょっとまっていてくれ」
心の中で2人の「俺」がつぶやいたような気がした。

《データーゴーストアジト内・礼拝所》
椅子が全て取り払われた礼拝堂は、純白の床と、その上に描かれた巨大な円をさらしていた。
円内には「魂」の詰められた丸底フラスコが等間隔で並べられていた。
その中心では、少年の姿をした彼らのリーダーが、精神統一を行なっていた。身体の再生の準備のためだ。
その真正面の円外に立つヒムはその様子をじっと見つめていた。肩には彼女に託された小さなハチがとまっている。ヒムはクラインに、他の者に聞こえないほど小さな声でそっと尋ねた。
「どうして、俺たちを裏切ったのかな?」
クラインはビクッと身体をふるわせる。
「う…うらぎってないよ」
「嘘。ギハの伝言をピンに伝えただろう?そのせいで色々とリヴリーポリスに情報が回ってしまった。
―何でこんな事をしたんだ?」
彼は小さな裏切り者に、落ち着いた声音で尋ねた。
しばらく黙っていたクラインは、やがて小さく呟いた。
「メビウスだったら、きっとこうするだろうなぁっておもったの。だってメビウスはいっつもじぶんいがいのことばかりかんがえていたもの。メビウスだったら、じぶんがいなくなってでも、きっとギハをのこそうとするよ。だから…」
黙ってしまったクラインにヒムは何も言わず、ただ彼の愛しい存在だけ眺め続けていた。

《リヴリーポリス・病室》
タバサはいつも通りの黒いパーカー姿だった。
「…どいつもこいつも…俺だけ除け者にしやが…ッ!」
まだ傷が完全に癒えた訳ではない。スズメバチの毒のせいで多少のふらつきも残る。
しかしタバサはいてもたってもいられなかった。
彼はもう何もかも知っていた。ギハがさらわれた理由。ピンの居場所が分かったこと。リンプがそこへ1人で
向かったこと。スパイが自分たちの仲間の内に居たこと。桃夜は逃げ、ホオンは捕まったこと。
全て教えてくれたのは、彼のすぐ近くに立ち、不安そうにしている脱獄犯だった。
「タバサ副隊長…あの、無理をなさらないで下さい。まだ万全ではないですよね?お願いですからベッドに
戻ってくださ…」
ベッドに両手をつき、荒い息をなだめるタバサにホオンは懇願する。その懇願を右手で制して、
タバサはにやりと笑った。
「俺に全て教えたのが運のツキだ。諦めろ。ホオン」
「でも…」
「だいたい…俺に何も言わないで自分らだけで事を進めようとする所が気にいらねぇ。全員セットでフルボッコ
だなこりゃ。あ、ホオンは知らせてくれたからな。利き手デコピンで許す」
落ち着いたらしいタバサが、なおも不安そうな彼女の肩を軽く叩く。
「全員フルボッコするためには…全員無事に戻ってこないと、だな。ホオン、道案内頼む。
俺はどこに行けばいいのか見当がつかない」
「え…あの、良いんですか?私は…裏切ったとはいえ、元―」
「何言ってるんだ?」
しごく当然といった様子でタバサはホオンに告げた。
「ホオン。お前は立派なリウリーポリスの隊員だ。ヤグラ隊のオペレーターで、俺たちの大切な仲間だ」
「タバサ副隊長…!」
「だからよ…ほら!早く!行くぞ!」
臭いセリフを言ってしまい自己嫌悪にでも陥ってしまったのか、タバサは顔を真っ赤にして早足に歩いていく。
溢れた涙を拭ったホオンは、幸せそうに微笑んで、仲間の背中を追った。

《データーゴーストアジト内・モンスター培養室・第3通路》
「うわぁ…」
「これは…」
「…きもい」
ラクーンドック、俺、リンプの驚嘆の3重奏が通路に響く。
今、俺たちが進む通路の照明についての感想だ。
暗い部屋を照らすのは、俺たちの両脇に並ぶ巨大な試験管。多分、光る物質が成分に入っているんだろう
その中で培養されているのは、巨大なスズメバチ。1本の試験管に1匹。身体を丸めてその緑色の液体の中に浮かんでいる。
「こうやって…モンスターを培養してたって事ね…」
呆れたようなリンプの声が反響した。ラクーンドックが少し気分が悪そうに手で口を押さえている。
こいつらは、多分大会議場を襲った種類のモンスターと同じようなもんなんだろう。
本物の動物―哺乳類とかいう種類の動物みたいに、身体を丸めて試験管に詰まっている姿はなかなか
凄かった。
「うわーうわーうわー…」
「うるさいよラクーンドック!」
「だって軍曹!さっき何か、あのスズメバチの目が光った…」
「…は?」
ラクーンドックの言葉に俺たちは足を止める。そしてラクーンドックが指さす方向を見た。
目が光った…?
「ま…培養中っていうんなら…つまり…生きてるんだもんな…気にしなくても」
「いや。駄目」
俺の言葉を遮って、リンプはそろそろと試験管に近寄る。しばらくまじまじと眺めていたが、いきなりこちらを
振り向いた。
「ヤバイっ!!逃げてっ!」
「えちょ待」
「走れ!!」
むしろリンプの怒声に驚き、俺たちは走り始める。
『逃げられると思ってる?ハッ!馬鹿じゃねぇの?』
「ピン変な事しないでよ!」
「ラクーンてめぇ!!」
「僕がこんな芸当できる訳無いでしょ!?」
頭の中に声が響く。こりゃ無理だろう。
何か聞き覚えのある声だと思ったら、瑠姫の『魂』をさらっていった奴だった。声に反応するように、
周囲から響く「ピシっ」という音が増えていく。
『逃がさねぇよ!!』 
ガシャーン!!
試験管が破裂する。
バシャバシャバシャ!!
培養液が通路にあふれ出す。
「うわぁぁぁっ!!」
「のわぁぁぁっ!!」
ガラスと培養液に一瞬気を取られた瞬間、俺たちは囲まれていた。
大量のスズメバチに。幾重も幾重も―
「嘘ぉ!?」
自分の声とは思えない、気の抜けた声が口から出てきた。
「…!!」
ラクーンドックがぱくぱくと口を動かしている。
「くそっ…囲まれた…」
リンプが男のような口調で悔しそうに呟いた。
スズメバチの羽音がわんわんと響いている。
複眼が、床を流れる培養液の緑色の光を反射し、ギラギラ光っている。
早く行かなければ、本当に間に合わなくなる…
俺は奥歯を噛んだ。
「ピン…」
リンプが小声で呼んでくる。
「…何だ」
「ピン、先に行きな。ここはあたしたちが何とかするから」
「何とかするからって…」
「大丈夫だよ。軍曹はリヴリーポリスなんだし、僕も戦えるから」
「でも…」
こんな大量のスズメバチどうするんだ?と続けるつもりだったような気がするが…
「ああもううるさいなぁ!!とっとと行って来い!!」
リンプの大声に反応して、ハチ共が一斉にこちらに向かってきた。
「/fire!!」
「/sling!!」
リンプとラクーンドックの声が響くと同時に、最先頭のスズメバチが灰と化し、後列のスズメバチが
大量の投石攻撃により撃沈する。
「ほら!早く!」
リンプが前方のスズメバチを焼き払う。
一瞬だけ作られた道。俺は覚悟を決めた。
「悪ぃ!!先行くからな!!」
「ここカタつけたらあたしたちも合流するから!!」
「負けないでよ!!ピン!!」
培養液も随分引いてきており、水に邪魔される事はなかった。
またハチに妨げられる前に、俺はその血路を駆け抜ける。
仲間に背中を預け、後はただ前へ前へ進むだけだ。

《データーゴーストアジト内・モンスター培養室・第3通路》
アジトの中へ入った途端に、ホオンが血相を変えて駈け出した。地下道への入り口らしいレジ裏の穴に
飛び込み、急な階段を駆け降りる。
慣れない階段と、今だに痛む傷のために少し遅れてしまったタバサはそこで奇妙なモノを見た。ずらりと並ぶ
巨大な試験管。
本来、何か入っていたはずのその中は全て空だった。
「…何か、オブジェ…な訳ねぇよなあ…」
ホオンが入った通路を走ると、彼女の元へ近づく度に床が湿り、周囲の試験管の破損が酷くなる。
内側から破られたようなそのガラス片の散り方に、タバサの直感が彼に警笛を鳴らす。
タバサがホオンの元へ辿り着いた時、彼女はくやしそうに両手を握り、俯いたまま立っていた。
「ホオン…」
「…副隊長、ごめんなさい…」
振り向かないままにホオンが呟く。タバサが彼女の方へ駆け寄る。座り込んだホオンの前には見覚えのある
姿が倒れこんでいる。
「やられちゃいました…」
見知らぬハナマキと…彼に覆い被さるように倒れたリンプ。
「リンプ…」
「すみません…それと…」
振り向いたホオンの顔を見て、タバサはぎょっとする。
強張ったその顔はすでに半分ほどデータが消えかかっていた。
「ホオン!?」
「すみません…私も、限界か…と」
「!?」
タバサが気づかない間に彼女の片脚が、両腕の半分が、消えている。
「たくさんのリヴリーの『魂』や…『リヴリーアイランド』内を構成する、色々なデータ今、いろいろなものが…
この先に…向かっ…て…」
「ホオン…外に出」
「もう…逃げ場無いです。どんどん…消えて…感覚が…して…」
ホオンの身体から、データがいっきに剥がれおちる。もう胴体と頭くらいしか残っていない。それでも彼女は
懸命に口を動かす。
「…でも…大丈夫で…だっ…てまだ『希望』が…あり、ます…」
「『希望』?」
「ピンさ…と、ギハ君…奥…で…お願い…タバ…ふた、り、ヲ―…」
「ホオンっ!!」
タバサは彼女に両腕を伸ばした。しかし間に合わない。彼女は微笑んだまま、サラリと、消え去ってしまった。
「…何だよ、コレ…」
伸ばしたままの両腕が震えているのが分かった。
自分の目の前で『仲間』があっさりと消え去った。
振り返ると、無鉄砲に、自分には何の相談無しで飛び出した『仲間』が倒れていた。
「………クソッ!!」
誰とも無しに悪態をついたタバサは、前へと走りはじめる。
消えたホオンは奥にピンとギハが居ると言った。
だったら―助けたい。
「無事じゃなかったら…承知しねーぞっ!!ピン!ギハっ!!」

《データーゴーストアジト内・礼拝所》
円に異変が起こる。
光が急速に弱まる。
ヒムが突然の異変に表情を崩した。
「何だ…?」
そひも、桐衣も、桃夜も、戸惑っている。
「かえって、きた…」
クラインは少し呆然として、その後大声を上げた。
「かえってきた!」
わずかな光に包まれた「彼女」―いや、「彼」が好戦的な笑みを浮かべた。
その瞬間だった。
全てのものが一斉に光を失い、地面に落下した。
強制的に集められたデータの破片が、フラスコの中に閉じ込められていた「魂」が、空中へ、この空間の外へ
逃げ出していく。
「ギハがかえってきた!!」
その騒乱のさなかに立つ、小柄な少年。
ギハは強い意志を持ったその瞳で、目の前で立ちすくむ彼らをしっかりと見つめた。

試験管の通路を抜けると、向かって右側に味気ないドアが見えた。通り抜けられそうな所はあそこ以外
無さそうだ。俺は何も考えずに勢いよくドアを開く。
驚きの展開が待ち受けていた。
白い礼拝所。
リヴリーアイランドの創設の様子が描かれたステンドグラスが見える。
その前で、激しい攻防が繰り広げられていた。
4対1の争い。
その中央に居るのは、ハンマーを振りながら雷を落としているのは―
俺は駈け出した。戦略とか作戦とか、そんなのは全く頭から抜けていた。
「/fire!!!」
いきなり炎を放ったためか、流石に経験豊富な「奴ら」も驚いたらしい。その隙間を突いて俺はその争いの中に滑り込んだ。
ハンマーを振っていた「アイツ」は―ギハは俺の姿に少し驚いたように目を見開いた。
しかしすぐにイタズラっぽく笑うと、小さく呟いた。
「遅かったね―心配したんだから」
「悪かったな。その色々―弱っててよ。手遅れになる前に辿りついたんだからそれで許してくれ」
「キリキリ動いたら、許してあげる」
「またピンがギハのよこにもどってきたんだね」
ギハの肩に乗っかったあの時の小さなハチがはしゃいだような声をあげる。
俺とギハは互いに顔を見合わせ、微笑んだ。

《データゴーストアジト内・礼拝所》
彼らはヒムの合図で、一斉に四方に飛んだ。背中合わせに立つ二人組を中央にして。
「メビウス様が…復活を拒まれた…のか?」
ヒムは身体を緊張させたまま混乱していた。
何故、何故、何故?
俺たちは―『俺』はメビウス様にまた会いたいだけなのに…
それなのに…何故?
『ヒムさん、どうする?』
そひの声が頭の中に響く。
『メビウス様は…私達を裏切ったのですか?』
桐衣の困惑しきった声も。桃夜の混乱しきった思想念波も。
彼らの思念はヒムの混乱と混じり合う。
混乱。
哀しみ。
愛憎。
『メビウス様を、早く元に…』
桐衣の揺れる声が、ヒムの暗い想いを結実させる。
「そうだね。桐衣」
ヒムは今まで見せたこと無いような笑顔を桐衣に向けた。
そして、鋭く手を打った。
パンッ。
乾いた音が響く。
彼が何をしようとしているのか気付いた、あの小さな『種』が叫ぶ。
「ヒム駄目っ!」
その声は、もはや彼には届かなかった。
ヒム以外、三人のゴーストたちは、驚く間も無くその形を失った。
「…そんな…」
「種」が泣きそうな顔をする。背後の男が、何が起こったのかと、ヒムを睨みつける。
しかし、不意に全てを理解したように苦苦しく顔を歪めた。
「まさか、お前か…自分の欲望でこの世界を壊そうとしてるのは」
「…メビウス様の復活に、自分の魂が使われるなら、彼らも本望だろう?」
ヒムはぼんやりとした微笑みを二人に向けた。
「てめぇ…」
「後は…そう、媒体…媒体だ。…クライン、おいで。『こちらへ』」
もう、ヒムには建前も何も無い。ただ―願いだけだった。望みだけだった。
「ピン見ちゃ駄目!」
だが、警告は遅かった。
ヒムが左手、まっすぐ伸ばした四本の指を内側へ曲げる。
シルバーアクセサリーが煌く。
それは簡単な催眠術。
しかし、誰もが引き込まれ―
次の瞬間には、もはや形勢逆転した後だった。
「!?クライン!」
狂気の騎士の手には、暴れる小さな「種」の欠片。
「…終わり、だよ…」
陣が再び青白い光を放つ。
一度は逃げ出した『魂』が強制的に吸収される。
ヒムとクラインを中心として、竜巻が起こる。
そして―

《リヴリー引き渡し所・待合室》
ダークヤグラは朦朧とする意識の中で、それでも何とか状況を掴もうとしていた。
「マ…見たダケで…分かっちゃいますケド…」
待合室にはさまざまな種類、さまざまな立場のリヴリーが倒れている。
一目で「データーゴースト」の儀式が行われたと分かる状況。

「『絆』によって命運が左右されてしまうこの世界も…とてもおとぎ話じみてはいませんか?
そう考えると突飛な話でも、信用できてしまう気がします」

「ホオン…小生、信じてますヨ…アナタの話…この世界を救ウ、おとぎ話―…」
彼の意識はどこかに引きずり出され―

《データゴーストアジト内・モンスター培養室》
「何だ…コレ…」
探し回ってようやく見つけた、無機質なドアの前でタバサは床にうずくまるように倒れていた。
強いものに何か大切なものを引きずり出される感覚。
タバサの頭にぼんやりと思いだされる、意識を失い続けるリヴリー達の身体。
倒れているリンプと見知らぬハナマキの姿。
「…つまり…そういう事かよ…」
自分が今まさに『ロストソウル事件』の被害者になろうとしている。
反発しようにも出来ない程の強い吸引力。
それでも反抗しようとして、タバサはドアノブに手を伸ばす。
もう少し、後少し―
しかし、ドアノブに手が触れた瞬間、タバサは舌打ちする。
「ちく…しょ…」
そして辺りは静かになった。

《データゴーストアジト内・礼拝所》
竜巻が治まった時、その中にヒムは居なかった。
クラインも居なかった。
ただ―1匹の巨大なスズメバチが居るだけだった。
見た事も無い、巨大な、化け物…
「ギハっ!!」
ピンの叫び声に気付いた時、奴はとっくの昔に僕の目の前に迫っていた。
慌てて横に避けると、奴はそのまますっ飛んでいき、壁に激突した。
巨大な身体を持て余しているみたいだった。
僕はピンの所まで退いた。
「あれ…クラインだよな…?」
「…違うよ…そんな事言ったら、クラインに怒られる…」
無理矢理「メビウス」に仕立て上げられかけて、クラインは暴走してしまった。
全ての『魂』を吸い取り、巨大な欲望の塊になり、今まさに僕らを狙っている。
「ヒムも、喰われたのかね…?」
「そうだろうね」
「何で俺ら無事なの?」
「…分かんないよ…」
壁にぶつかり、めりこんでいたスズメバチは体勢を整えて再びこちらに向かって飛んでくる。
僕たちは避けようとした。
『ヴィリエさん…!』
でも―不意に聞こえてきた声が、ピンの足を止める。
その一瞬の油断は、命取りになる。
気がつくとピンの目の前にハチが迫っていた。
「―やばっ…」
「ピンっ!!」
僕はピンの前に飛び出していた。

《???》
暗闇に再び投げ込まれた。
中に溢れる、沢山の魂。
僕はその中で溺れそうだった。
ザザザザザザザザザザザザザザザザザッ
ザザザザザザザザザザザザザザザザザッ
酷いノイズが響いている。
本当は、ノイズじゃないんだっていうのは分かる。
引きずりこまれたリヴリーたちの悲鳴。
ここから出してって、そんなひとつひとつの声。
ピン、大丈夫かな?
こんな中に居たら、見つからないだろうな…
ザザザザザザザザザザザザザザザザザッ
ザザザザザザザザザザザザザザザザザッ
ザサミザザザザザザサミシザイザザザッ
…?
何か、聞こえた…?
ザザザメビザザザザザザウスザザザザッ
ザザザザザザザザザザメビウスザザザッ
メビウス?
…ひょっとして、これ…
「クライン!?クラインなんでしょ!?」
ザザザオイテザザザザイカナイデザザッ
ザザサミシイヨザザザサミシイヨザザッ
『おいていかないで』?
『さみしいよ、さみしいよ』?
クライン…そうか…
クラインは元々メビウスの一部だったから…
きっと寂しくて、だから…理性を失った今、暴走して、たくさんの魂を無理矢理引きずりこんじゃったんだろう。
関係ないものも全て巻き込んで―
まるで…少し前みたいの僕みたいだ。
でも…止めなきゃ。だからこそ止めなきゃ!
「駄目だよクライン!こんな事したら、この世界が壊れちゃうよ!」
ザザサミシイサミシイサミシイザザザッ
「クライン!聴いて!クラインっ!!」
ザザザザザザサミシイサミシイザザザッ
言葉が届いてない…
『…ここ…は』
身体の中でメビウスが目覚めた。さっき無理矢理『復活の儀式』を壊すと、そのまま疲れきって眠ってしまって
いたメビウスはちょっと状況を掴み損ねてたみたいだ。
でもすぐにハッとした声を挙げる。
『…クラインの中…ですね』
「ごめん。ヒムを止められなくて…クラインが…」
『ギハのせいではありませんよ…後は私が、どうにかします』
メビウスが僕の中で力強く胸を張ったのが分かった。
自分を励ますみたいに。
『全てを終わらせましょう。ギハ―』

《データーゴーストアジト内・礼拝所》
「うおっ!?」
また壁まで吹き飛ばされた。
今何ケガくらいだろうか?まだ意識は残ってるし、身体は痛いが動くから、大丈夫か…
…ギハが身代わりになってくれたおかげで、何とかこのまま保ってるみたいだ…
ギハはハチに噛まれて…消えてしまった。どうなったのか分からない…
「死んだ」なんて、可能性としても考えたくない。
100メートルくらい先で、ハチが狂ったようにくるくる回転し続けている。
俺を探しているようだが見えて無いらしい。
…確かに、瑠姫の声だった。あのハチの中で多分、まだ生きてる。
そう考えないと、本当にやってられない…
「ロクな事しでかさねぇな…あの馬鹿野郎…」
最後に見たヒムの顔が思い出された。
でも…ある意味俺もアイツと同じだったのかもしれない。
ヒムも、ただ大切なものを取り戻したかったんだろう。例え全てを犠牲にしてでも―
ハチの魚眼がぎょろりと俺を映した。
ちょっと…まずいかも…
コイツ、俺が認識した時にはもうすぐ近くに居るんだもんな…
余計な事考えてたらもう目の前に迫ってて、とっくの昔に俺は空に投げ飛ばされていた。
「ッアアアアっ!?」
そして背中からモロに床に墜落。頭が一瞬真っ暗になる。
…身体が妙に丈夫で死ににくいのも、困りものだ…
手足も何とか動く…
視力も戻ってきた…
身体も…起き上がれるっ!
自分を騙して無理矢理上体を起こす。そこはちょうど儀式が行われていた円の中心だった。
そして…ハチがもう迫ってきている…!
「…速ぇよ…!」
ハチは俺に向かって一直線に飛んでくる。
…でも、あきらめる訳にはいかない。
「何のために来たって…思ってんだ…」
俺はふらふらとする足で立ち上がり、全身全霊をかけて火の玉を作った。
「来るなら…来い!!」

《???》
『クライン』
『ずっと待たせてしまって、ごめんなさい』
『私はクラインの優しさに甘えて…いえ、多くのリヴリーに甘えて…
こんなとんでもない事になってしまいました…』
『クライン…こんな苦しい思いをさせて、ごめんなさい』
『私は、これから全てを精算します…ギハにも協力してもらって…全て終わらせます』
『これからは…ずっと、ずっと…一緒ですから…だからクライン―』

『もう寂しくないんですよ―』

《データーゴーストアジト内・礼拝所》
ハチが停止している。
不思議な事に宙に浮いたまま。
「何だ…?」
でももう危険は無さそうだ。それだけは分かった。
火の玉を消滅させると同時に
ザッ―
ハチが尻の部分から消えはじめる。それに伴って中から青白いものがブワッ!と飛び出した。
「うわっ!!」
『魂』だ。『魂』が解放されたんだ。
俺はまぬけに大口を開けて声をあげた。
青白い『魂』の群れから白い光の塊がふわりとこちらへ飛んでくる。
それがひときわ強く光ったと思ったら―
「ピンー!っうわぁぁぁっ!?」
「っ痛ぁぁぁぁっ!!」
支えようとして後ろに転んだ。
また激痛が背中を走った。
「何でこけるんだよ!僕が重たいみたいだろ!?」
「俺は満身創痍なんだよ!」
上に乗っかったギハのパンチが容赦無い気がする…
「お前…大丈夫っぽいな…」
「メビウスが、クラインを説得してくれたんだよ。もうすぐ…全部が終わる」
そう言うギハの表情が妙に寂しげなのが気になった。
ギハの後ろでハチの顔面が消え去った。

起き上がると、数メートル離れた所でヒムが倒れている。
他のデーターゴーストの連中も、それぞれが消えた地点で身を起こし始めている。
「…逃げるぞ、ギ」
「その必要はありません」
近すぎて気付けなかった。俺のすぐ真横にするりとした女の脚が伸びている。
白い清潔なワンピース姿にこそ見覚えは無かったが、その顔は紛れも無くあの日自分と喋ったパキケだった。
「メビウス…」
「お久しぶりです。ヴィリエ…いえ、ピンさん」
微笑んだメビウスの肩には、元の大きさに戻ったクラインがちょこんと乗っかっている。
「クライン、大丈夫?」
ギハが心配そうにクラインに話しかけると、楽しげな返事が返ってきた。
「メビウスがね、もうずっといっしょだよって。やくそくしてくれたからだいじょうぶだよ!」
「そっか…」
そんなクラインとギハのやりとりを眺めていたメビウスが口を再び開く。
「ピンさん。これから私は全てを終わらせようと思います。全ての元凶として。でもその中でピンさんにも…
悲しい思いをさせなければなりません。それも全て、全て私の責任です」
悲しい思い…?
妙な胸騒ぎがする。
俺はメビウスにどういう意味かたずねようとしたが、ギハに止められた。
胸騒ぎがいっそう酷くなる。
「これから―全てを『無』に還します」
メビウスが「宣言」した。

《データゴーストアジト内・モンスター培養室》
「タバサさん…タバサさん!」
「良かったー!タバサさん大丈夫ー?」
「僕…ここに居て大丈夫なの?ねぇ、軍曹?」
タバサが目覚めると泣きそうな顔をしたホオン、笑顔のリンプ、そして見知らぬ男の顔が並んでいた。
「何が…どうなってんだ?」
消えたはずのホオンと、意識を失っていたはずの2人、そして自分―
自分の『魂』―と表現するべきなのだろう。それが引きずり出され、無理矢理どこか詰め込まれていたのは
感覚として残っている。そこから解き放たれた開放感も含めて。
「私もラクーンドックもイマイチ分かんないんだけどー…」
3人分の視線がホオンに向けられる。ホオンは静かに、しみじみと呟いた。
「全部…終わったんです。後は、後片づけだけなんです―」
妙に引っかかる言い方だ。タバサはゆっくりと起き上がってホオンの方に向き直る。
「後片付け?…どういう意味なんだ?」
「タバサさん。リンプさん。私、2人のお陰でやっと自分の道が歩けたんです。本当に、出会えて良かった…
もう少し、本当に『ヤグラ隊』として、みんなと、戦いたかったけど…今までありがとうございました…」
「質問に答えてねぇぞ?ホオ…!?」
「ホオンっ!どこに行ったの!?」
もう彼女の姿は無くなっていた。
皆が気付く前に。
霧のように、霞のように、
ホオンの姿は消えてしまった。
「片付け…って…」
タバサが絶句した時。
「ギハっ!!」
扉の向こうで悲鳴があがる。
聞き覚えのある声。
3人は茫然と扉を見やっていた。

《データーゴーストアジト内・礼拝所》
メビウスの「宣言」から本当にすぐだった。
そひ、桐衣、桃夜が次々と光の玉となり、地上へと飛んでいく。
「全て終わらせるって…」
「ゴーストの魂を、元の身体に戻すんだ。ゴーストの間の記憶も全部消して…もう2度と同じことが起こらない
ようにさ…」
座ったまま俺とギハはそんな会話をしていた。と、横に立っていたメビウスがゆっくり動きはじめる。
向かう先は―ヒムの所だ。
「…何故ですか…メビウス…様…こんな事をすれば…あ…なたも…」
「ヒム…」
「メビウス様は…こんな所で、消えては…」
ヒムは崩れかけていた。それでも必死で実体を留めようとしているようだった。
メビウスはその崩れかけた身体の横にひざまずき、辛うじて残っている右腕を包んだ。
「ヒム…辛い、大変な仕事を任せてしまいました。でも…今、帰ってきましたよ。あなたは立派にリーダーを…
私の騎士としての役割を果たしてくれました。どうか…もうゆっくり休んでください…」
強張っていたヒムの表情がかすかに和らいだ…ような気がした。
気がついた時、ヒムの身体は消えていた。変わりに光の玉がメビウスの前でふわふわ浮かび、
やがて上へと飛んで行った。
「ホオンも…ちゃんと、帰りましたね」
立ち上がったメビウスが、こちらを向いて微笑んだ。
「私も…そろそろ行きますね。ピンさん…私を…ギハを助けてくれてありがとう…」
「ギハ、さきにいってるね」
そう言ったか言わないかの内に、メビウスとクラインは消えていた。
俺はしばらくそちらをぼうっと眺めていたが、その内ようやく実感ができて大きくため息をついた。
「…終わったな…」
終わった。何もかも終わった―
でも―妙な違和感はまだ残ったままだ。
違和感―ギハがはしゃがない。
何でだよ。全部終わったんだ。お前はお前として生きていけるんだ。
そう言おうとしたが、ギハに遮られた。
「まだ、終わってないよ…」
ギハの目線が、足を向いた。つられて俺も見る。
いや、見れなかった。
ギハの足はもう無かった。
消えかかっていた。
一瞬心臓が止まって、その後は激しい動悸に襲われた。
そういえば、メビウスが消える前に言っていた「アレ」は…
クラインが消える前に言っていた「アレ」は…
まさか…!
ギハの頭がガクッと力無く垂れる。
耐えられず叫んだ。
「ギハっ!!」

《データーゴーストアジト内・礼拝所》
陣の中心。
僕はピンに身体を支えられている。
ピンが泣きそうになってる。
「…だい…しょうぶだよ。すぐに消える訳じゃないから…もうちょっと我慢できる…から…」
お願い。僕の話を聞いて。
きっと僕がピンとできる最後の会話になるから…
「何でお前が…!」
「僕は…メビウスから作られたものだから…だから、メビウスが消える時には…
一緒に消えないといけないんだ…『メビウス』と『ギハ』っていうリヴリーは存在しないから…」
存在しないものは、消えなければいけない。当然の事だ。
「ねぇ…ピン。来てくれて、ありがとう…あのね…話したいことも、いっぱいあったんだけど
…やっぱ…間に合わないよね…」
ピン。僕、自分の空白をやっと埋められたんだよ。過去を何もかも見て、辛い事も、見なきゃ良かったって事も
いっぱいあった。けど、それ以上に気付いたんだ。
「俺は!俺はこんなの認めねぇ!あの時みたいに元に戻せるハズだろ!?何か方法が…!」
「ピン…駄目だよ。そんな事しちゃ…」
「ギハ…でもっ…」
「ねぇ、ピン…僕は『ギハ』として、ピンと一緒に生きて来られて、本当に幸せだった…って思うんだけど…」
身体がもう半分くらいしかないや。
ピンは、頑張って冷静になろうとしてる。
涙が僕の顔に落ちてくる。
「ギ…ハ…俺も…」
それでも涙をぬぐって無理矢理微笑んでくれた。
「俺も…幸せだよ。ギハと一緒に…生きて…」
ピンごめん。
ごめんね。
「…そっか…ピン、ありが…」
時間切れだ。


「ギハーーーっ!!」
ピンの叫び声が聞こえた。


何もかも、真っ暗になった。

《マイランド地区・ラクーンドックのアイランド》
瑠姫が意識を取り戻した時、自分のアイランドとは異なる場所に居た。
「ここは…ラクーンドックさんの…」
辺りを見回すが、誰の姿も無い。ラクーンドックも、ヴィリエも居ない。
わずかに恐れを感じた。しかし、それもすぐに消えた。
自分を引きずりこもうとしていた黒い手は、もう見えなかった。
自分を縛り続けたものが、消え去った。瑠姫はゆっくり立ち上がると、そのまま空を仰いだ。
データーが剥がれおち、暗黒をさらけ出していた夜空に、藍色の天幕が戻りつつあった。
瑠姫の口が小さく動き、言葉を紡ぐ。
全てが終わり、喜んでも良かったはずだ。自分を陥れたものに怒りをぶつけても良かったはずだ。
しかし、彼女が―旧体制のデーターゴースト幹部が紡ぎ出した言葉は、
「…ごめんなさい…」
贖罪の言葉だった。
それは誰への贖罪だったのだろうか。
自身が巻き込んだ多くの存在か。
裏切った仲間か。
大切な1人の存在か。
それとも―自分自身か。

《リヴリー引き渡し所地下・限定立ち入り区域内診療所》
ダークヤグラが目覚めて真っ先に向かったのは、リヴリーポリス地下にある「2年前」の被害者たちの
身体の保管所だった。
「ヤハリ…」
並べられた5つのベッド。
その上に身を起こす5人は、自分に起こった事を何も覚えていないらしい。
辺りをキョロキョロと見回している。
最も近くに居たケマリの少女がダークヤグラに恐る恐る尋ねてきた。
「あの…ここは、どこでしょうかぁ…」
「…小生に見覚えはありませンカ?」
「あの…有名なダークヤグラさん…ですよね?」
部屋中を見回すが、全員が全員そんな感じだった。
「全てが、終わった…という事デスカ…」

こうして、リヴリーたちの小さな願いから生まれた光は消えていった。
多くのリヴリーたちを巻き込み、自分自身を焦がしながら。
最後には、自分で自分を消し去って。
それが幸福だったのか、不幸だったのかは分からない。
だから、ただ事実だけを述べよう。

全てが、終わった。

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