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夜明五戦士伝:壱ノ話 [Livly長編;夜明五戦士伝]

2カ月、お待たせいたしました!
連載は一応開始です!

…とは言いましても、初回ですのでそんなに劇的な進み方はしていません…
しかも大分中途半端に終わっていますが…^^;
そしていきなり、色々ねつ造も始まっていますが…

楽しんでいただけると幸いです。


《10年前、赤の国郊外、深緑の森》
「五戦士って知ってる?」
青い髪の青年が、横の少年に尋ねた。深い森の中、2人は手をつないで歩いていた。
「知ってる。500年前に『くでんし』っていうのが連れてきて、空の向こうからやってきた『のうくい』をたくさんやっつけたんだって。でもねえさんは、ただのおとぎばなしだって。ほんとなら今はもう『のうくい』は居ないはずだって」
淡々と答えた少年に、「そっか」と青年はうなずくと、その場でぴったりと立ち止まった。
「…ねぇ、ニーナくん」
ニーナと呼ばれた少年は、自分より数十センチ上にある柔和そうな青年の顔を見つめた。
「五戦士、本当に居ないと思う?」
一見、表情の変化は見られない。しかし少年の瞳の奥が輝く。青年はにっ、と笑った。そしてしゃがみこみ、少年の目の前に小指を差し出した。
「…本当に五戦士の力を借りたいって思った時は、さっきの地図をたよりにおれを訪ねてきて。約束するよ…絶対に、ニーナくんを助けるからね」
彼ら2人以外、人っ子ひとり居ない森の中。2人のゆびきりげんまんの声が響いた。

《現在、赤の国「深紅の城」、西バルコニー「明星の窓」 》
そのバルコニーは、赤の国の勝利と発展の象徴だった。
「脳喰い」との戦に参加し、赤の国を創った始王から脈々と続く戴冠式。
国を広げるための戦で忠義を立てた騎士たちの叙勲式。
妃のお披露目も、世継ぎのお披露目も、何もかも全てが「明星の窓」で行われてきた。
歓喜。
熱狂。
栄光。
進歩。
しかし、今はもう過ぎ去った過去のように見える。
初夏…本来であれば夏の祭りに使われる香の薫りがそろそろ国中に漂いはじめる頃だ。人々も活気づき、にぎやかになる頃だ。しかし今、国中に漂うのは敗戦の臭い―それは何かが焼け焦げたようなきな臭さであり、腐臭であり、血液の臭いであった―であり、化け物の咆哮と人の悲鳴が時々響き渡る以外は、しんと静まりかえっている。
「明星の窓」には赤いテーブルクロスのかけられた1つの茶会用テーブルが引き出されていた。机の上にはあんぱんが山積みにされており、国の様子を眺めるように3脚の椅子が半円状に並べられていた。
中央の椅子には大きなピンクの兎のぬいぐるみ。50cmはあるだろうか。
ぬいぐるみの右側には、茶色いキャスケット帽の少年。
ブカブカの白いシャツに紺色のベスト、だぼだぼの黒いズボンに灰色のショートブーツ。その辺りの古着屋で買ったような服装。目元は髪の毛に隠れて表情は見えないが、両足をぶらぶらさせながら大きなあんぱんにかぶりつく姿は、どこにでも居る普通の子供である。
ぬいぐるみの左側には、ぼさぼさとした黒髪の青年。
履き古したジーンズに、いかにも部屋着といった様子の長そでのパーカー姿のだらしのない様子である。だが、その上から身体を覆うように纏った深紅のローブは、頭に王冠は抱いていないものの、彼がこの国を治める王であることを示している。

青年は赤の国の現王、ニーナ・ダヴィド・ヴェルガァシャ。
少年は侵略者、脳喰いのホォリィ。

冗談のような話だが、現実とは意外とそういうものなのかもしれない。
「ねぇ王様ぁ…」
ホォリィが半分つまらなそうにもう半分はからかい半分といった様子で、あんぱんから顔を上げた。しかし、ニーナはその言葉に反応する様子は無く、遠くから微かに聞こえる悲鳴をBGMにあんぱんをむさぼり続ける。
「1週間くらい経つんだよ?そろそろ僕とも仲良くしてくれても良いでしょ?」
「…ただでさえ他人にへこへこするなんて、面倒臭ぇんだ…誰が、親を殺し、国を滅茶苦茶にした連中と慣れ合うってんだよ。」
口の中のあんぱんを紅茶で押し込み、ホォリィの方向に目もやらないまま、ニーナは嫌悪感もあらわに呟く。
「不器用だねー、王様。それとも『きぜんとしてる』って言えばいいかな?」
でもさぁ…ホォリィは手に付いた餡子をぺろりと舐めとり、口角をつり上げた。
凶悪に光る鋭い犬歯が見えた。
「…どうせ、王様もこの国も、僕にとっては『あいつら』が来るまでのオモチャでしかないんだから…諦めなよ。諦めて、この『余興』を楽しめばいいんだよ~…ヒヒヒッ」
いつの間にやら現王のあごに、巨大な鋏の背がごんごん当てられていた。ホォリィの手から伸びるそれは、凶悪に鈍い光を湛えており、これでいつでも首を切れる…という意思表示のようだった。
だがニーナは表情1つ変えない。
「…面倒くせぇ…」
「ヒヒッ…今の僕ってすごーく悪者って感じ♪」
「…」
ホォリィの言葉を暗黙の内に肯定しながら。
希望はまだある。
ニーナは聞こえないように、小さく呟いた。

《1週間前、赤の国「深紅の城」、中央塔2F、現王ニーナの執務室》
王の執務室の扉は厚い。しかも無理矢理書棚や机、椅子などをバリケードに
用いているため、侵入にはかなりの苦戦が強いられる筈である。
しかし、当然完全な守護壁という訳ではない。
あと数分も経てば敵はこの部屋に傾れ込むだろう。
ニーナとハマは立ったまま、剥き出しになった床の一部分
―馬小屋に繋がる脱出用シューターを見つめている。
そんな時だった。
「ハマ、お前…五戦士の昔話は知ってるか?」
王のあまりにも状況にそぐわない台詞に、国王側近が「え…」と言葉を失う。
「知ってるのかって」
「まぁ…人並みには」
あまりにも強い口調だったので、ハマも戸惑いながら頷く。それを確かめたニーナは手に握りしめていた紙切れを「ほれ」とハマに渡した。
「これは…」
「ハマ、お前に特別任務を与える。五戦士を探して来い」
「は…!?」
「その地図通り進めば、五戦士について知ってる人が居る筈だ。青い髪の男…名前は『コノミ』」
渡された紙切れを慌てて開くと、それは地図だった。路上で不意に道を聞かれ、その辺にあった紙切れに走り書きしたような地図ではあったが。
「事態が飲み込め…」
「人間は脳喰いに勝てない。人の力じゃ脳喰いは殺せない…今国に入ってきてるような量の脳喰いに勝てる訳がない。だから、他国の援軍は呼んでも意味が無いだろ?」
「しかし、五戦士は空想上の…」
「いや。居る…俺は『コノミ』と約束したからな。絶対に助けてくれる」
狂ったか。ハマは思わず国王の方を見つめた。ニーナは正気で、且つ真剣だった。
「…ニーナ様はどうなされるおつもりで?」
「…王様が逃げてちゃ示しがつかねぇからな。親父たちも、姉さんも、もう…」
言葉を濁し「とにかく」とニーナが話を元に戻す。
「とりあえず『深緑の森』で迷うなよ。その地図、見にくいけどお前なら多分大丈夫だ。多分その地図見たら、『コノミ』も気がつくだろ…」
ニーナは、シューターの扉を開く。同時にバリケードごと扉が破壊されて本物の2倍はありそうなライオンが2頭、躍り込んでくる。
「絶対、探し出して来い」
「…それまでニーナ様も生き残ってくださいね」
ハマはシューターに滑り込む。年下の王が仏頂面で「当たり前だ」と言うのが見えた。

《赤の国郊外、深緑の森奥》
赤の国最大の森である、深緑の森。
その広大な世界を完全に把握する者は存在せず、うかつに森の奥にでも入ろうものなら
二度と森の外に出る事は叶わないと言われている。
逆に言うなら…身を隠すにはもってこいの場所という事にもなる。
深緑の森のさらに奥、木々の間から細く白い煙がもくもくと上っている。
その真下に建つ立方体の簡単な木造建築。
すぐ前には栗毛の1頭の馬が、急ごしらえらしい杭につながれたまま干し草を食んでいる。
煙はその家の、太い竹を用いた煙突から登っていた。

家の中8畳ほどの広さで、全体的に土間敷きである。
入口付近には炊事スペース。その反対側には水瓶や野菜の入った籠、
工具などが置かれた作業台が並んでいる。作業台にはレザーアーマー、ロングソードといった装備が丁寧に置かれているものの、これらはこの家の主のものでは無いようだ。
その奥に作られた簡易なベッドでひと悶着起きていた。
「駄目ですエルザ様!今動いたら傷が開いてしまいます!」
「そうそうそう!!傷開いたら痛いよ!絶対痛いよ!
しかもエルザ君1週間近く意識なかったんだからね
当然自覚ないだろうけど!」
「私1人休んでいられるか!国が、王が、国民が
…危機に瀕しているというのに!」
ベッドから飛び降りようとして止められている青年が叫ぶ。
乗馬用の黒く細身のパンツに白い長袖のシャツ―若い騎士がよくするラフな格好だ。赤黒いボブヘアーからは黒く艶やかな角が2本、短く突き出ている。上3段がはだけられたシャツの中からは、ちらりちらりと身体に巻かれた包帯が見えた。
エルザ、と呼ばれたその青年は非常に興奮しているようだった。
若い男が2人がかりで抑え込んでいなければ、すぐにでもベッドを飛び降り、家の前に繋がれた馬に飛び乗って行ってしまう。そんな剣幕である。
「今命の危機に瀕しているのは貴方です!そして、ご自身の立場をお忘れですか!」
若い男の1人が叫ぶ。少し長い白髪を持ち、眼鏡をかけた普段は恐らく冷静であろう青年―赤の国で現王から地図を託されたハマである。
「止めるなハマ!…多くの人命が失われたというのに…
私1人おめおめと生き残るわけにはいかない!」
「…死にに行くというのですか…!?」
「死にに行く訳では無い!国に命を捧げに…!」
「それを今は犬死にというのです!」
「あーもー!落ち着けー!!」
2人のやり取りをはらはらと見守っていた青年が声を張り上げる。
ひょろりとした青染めの髪の青年は、迫力には欠けるものの、
どうやら本気で怒っているようだった。
「とりあえずエルザくんは命を粗末にするような事言わない!特に1週間ろくに寝ないで看病してたハマくんの身になって!そしてハマくんが熱くなってどーすんの!ニーナくんに国を助けてほしいって頼まれたんでしょ!冷静にならなきゃ!」
「粗末にしている訳では…!」
「熱くなってる訳じゃ…!」
「赤の国騎士団長と国王側近がそんな調子じゃ全然ダメじゃん!今しなきゃいけないのは、赤の国で何が起こったのかを共有してで、どんな事しなくちゃいけないかを考える事なんじゃない?」
青年の言う事はいちいち的を射ていた。2人ともハッと我に返ったようだ。
「…すまない、ハマ。冷静じゃなかった」
「いや…俺も、言い過ぎました。申し訳ない…」
冷静になった2人に、青年はニコッと笑った。
「良かった良かった」
「桐前さんにも迷惑をかけてしまって…」
「いや、気にしないでよ~ハマくん。っていうか桐前さんとかじゃなくて素直にこのみ!とかで良いって。ニーナくんの知り合いなんでしょ?2人とも」
「知り合い…と言いますか…」
「主従関係ってやつ?いや~、まさかあのニーナくんが今17歳でしかも国王様なんてな~」
時の流れは早いね~などと言いつつ、2人の会話を総合すると桐前このみというらしいその若い男は、作業台の椅子に浅く腰かけた。
「ニ…国王の事を知っているのか?」
エルザが少々不審げに、このみに尋ねた。みたところ国王とそれほど変わらないであろう年齢の青年だ。彼は何者なのか。そもそもこんな所で一体何をしているのか…
「知ってるどころか!おれの恩人だよ。森の中をブラブラしてたら穴に落ちちゃって、その時出るのを手助けしてくれたんだ!」
「…国王は7歳くらいの頃に『深緑の森』で迷われた事があったな…」
「そうそう!多分それくらいの頃だった。助けてもらったお礼に森の外まで道案内して、約束したんだよね、ピンチの時は助けるって」
「しかし、その時助けて助けられたのは自分よりも年上の男だったと聞いたが…」
青い髪の男。名前は桐前…このみ。
国王に渡された地図の到着点に居た男。
困った時は助ける、という約束…
ハマの頭の中で、ニーナの台詞とこのみの言葉が繋がっていく。
「桐前…さん。あなたはひょっとして…」
五戦士は居る、という国王の真剣な表情。自分の予想が正しければ―
「五戦士なのでは…?」
「ん?違うよー」
瞬間だった。このみが右手を「無い無い」と2回振る。いっきに力が抜けて、ハマは床にへなへなと崩れ落ちた。
「ハマ…大丈夫か?」
エルザが本気で労わるような声でハマに尋ねる。どうやら看病疲れで色々おかしくなってしまったのでは…と考えているらしい。不思議そうにハマを見ていたこのみだったが、彼がなぜ崩れ落ちたかを察したらしく、慌てて付け加えた。
「あ!おれ口伝士なんだよね!だから五戦士にはなれないんだよ」
空間が一瞬だけ、静寂に包まれる。俯いていたハマががばっと顔を上げ、エルザは微かに眉間に皺を寄せた。
「今は冗談を言っている場合では…」
「エルザくんは『五行の戦士』って知ってる?」
「ああ。500年前の戦争の時に預言者『口伝士』と共に突如として現れ、脳喰いを倒した5人の戦士…しかし、おとぎ話だ。そんなもの」
吐き捨てるようにエルザが言った。しかし、このみは「チッチッチッ」と右手の人差指を動かす。
「ところが!実在するんだよね実は。でも今は色々な所に散らばっちゃってるからまた探さないといけないんだけどね~」
ぼんやりとしていたハマが感覚を取り戻したらしく、呟く。
「探すって…あのテレパシーとか、そういったものは…?」
「ハマ、お前まさか信じ…」
「それが出来れば良いんだろうけどね~おれもただ『五戦士』の誰かが居る!くらいにしか分からないし…まぁ、最後に別れたのはこの辺だったから、そんなに遠くには行ってないとは思うんだけど…」
「待ってくれ…状況が掴めないのだが…」
僅かな苛立ちの感情をエルザから感じ取ったこのみは、また髪の毛をくしゃりと掻いた。そうして「ぽん!」と手を打つ。そうして2人の方にずいっと寄って行った。
「ちょっと頭借りるね」
「何をしようと…!」
「桐前さん…?」
「大丈夫だから安心してよ」
右手をエルザの頭の上へ、左手をハマの頭の上へ軽く乗せる。戸惑う2人を「じゃ、始めるねー」というひとことで黙らせた。
「500年前の戦争を…ダイジェストで…再生!」
このみの言葉と同時に、2人の頭の中で自分の意思以外の「何か」が文字通り再生された。

『おma…oれのおとut…だy…。…aえがni…じゃ無…taとし…mo。…kuいだ…taとs…』
始めは壊れたけたフィルムのように。

しかし、だんだんと鮮明に、はっきりと。

向かってくる巨大な脳喰い。
逃げ惑う人々。
踏みつぶされて行く前近代的兵器。
燃え盛る都市。
幼い少女とその母親が、狂喜を瞳に宿したヒューマン型の毒牙にかかろうとして
―1つの光に、救われた。
各地で次々と、塗り替えられていく勢力。
無になろうとした世界地図が、緑に、紅に、黄に、白に、玄に。
人類の命運を担った5人の戦士たちの色へ染まっていく。
そして、全ての希望を背負った5色の光が、
史上最大の脳喰いの群団へと向かっていき…―

「『五行の戦士』と『脳喰い』の戦いを記録する。『口伝士』の仕事のひとつなんだ。…これで証明できた?おれが『口伝士』だって」
ぼんやりとする頭の内、このみの言葉が頭に響く。
全ては一瞬の出来事だったようだ。エルザとハマは顔を見合わせる。
「ゴメンね。けっこう荒っぽいことしちゃった」
「いや…」
エルザが額に手を遣り、ハマがゆっくりと頭を横に振る。今起きた事は唐突に理解できるものでは無かった。しかし…彼が五戦士に関わるものであるという事は理解できた。
「じゃ、次はおれの番」
このみはほほ笑むと、再び作業台の椅子に腰を下ろし、柔和なほほ笑みを浮かべた。
「おれ、詳しい事聞けてないし…赤の国で何が起きたのか、教えてよ」

「脳喰いだ。とんでもない数の動物型・昆虫型脳喰いが現れた…何の前触れもなかった」
首を傾げるこのみに、ベッドで上半身を起こしたエルザが返す。白い肌掛けに乗せられた手が、微かに震えている。
「エルザくんは、その場に居たの?」
「ああ…ちょうど西側の関所へ巡回しに行って…酷いものを見た」
赤の国周辺は深緑の森である。そのためよく動物型・昆虫型脳喰いが姿を見せていた。元々赤の国は建国当初からの対近隣国戦争のために国域がほぼ全体が高い城壁で囲まれていた。そのためこれまで大事に至った事は無く、威嚇射撃のみで追い返せていたのだ。
「普段の脳食いなら、少し威嚇すれば逃げる。動物型なら尚更だ」
その日も雄山羊の姿をした動物型脳喰いが現れ、報告を聞いたエルザは部下数名と共に西側関所へと向かったのだった。到着した時には、城門の上で威嚇攻撃用の空砲の準備が終わっており、兵士たちも配置についていた。
「しかしあの時、威嚇は効かず…その脳喰いは信じられん程の飛躍力で城門の上までとび上がって来た…威嚇攻撃をした兵士たちは私の目の前で最初の犠牲者になった」
エルザの眉間にしわが寄る。その時の事を思い出しているのだろう。
「その後は、それが合図になったようだった…脳喰いの大群が関所を粉砕して…地獄のようだった。兵士も民も関係なく食われていった…どうする事もできず、私も…」
唇をギリギリと噛みながらエルザは耐えているようだった。ハマが言葉を引き継ぐ。
「…これまでも、脳食いが襲ってくる事はありました。しかしそれは、本能に準じた行為でした。…今回はいつもと違いすぎる…」
当惑しきったハマが、独り言のように呟く。
「まるで、統率されているような…」
「…ひとつ、聞いても良い?ハマくん。その脳喰いの中に、ヒューマン型の脳喰いって居た?」
このみがゆっくりと、考えるように口を開く。ハマは首を傾げた。
「いや、俺はよく…」
「…居た」
ベッドの上のエルザが顔を上げる。
「実際は脳喰いかどうか分からない。しかし、動物型の上にまぎれもなく人間の姿をしたモノが乗っている事があった。…私が見ただけでも10人弱は居た」
「ん~…そっか…」
安い染髪料で染めたのか、青の下から下地の茶色が出てこようとしている髪をグシャグシャかき上げながら、このみは2人に言った。
「500年前の戦いの時にかなり多くの『脳喰い』たちは倒したんだ。でもその時に倒しきれなかった…女王蜂的な『脳喰い』が今目覚めたんだと思う。その『脳喰い』を倒さないとヒューマン型の、知能の高い『脳喰い』は生まれ続ける」
「生まれ続ける…?」
作業台の引き出しを引っ張り出し、がしゃがしゃとあさりながらこのみはエルザの問いに答える。
「えっとねー。そもそも『脳喰い』って自然に発生するワケじゃないんだ。その女王蜂みたいな脳喰いが身体の中に持ってる『核』っていうのを人とか動物とか植物とかに埋め込むことで生まれるのが『脳喰い』…あ、あった~!」
このみが両手で持ち上げたものはミニカーだった。大昔に用いられていた中型バスだ。車体は所々剥げてはいるものの空色に塗られ、横腹には黄色い文字ででかでかと「LOVE & PEACE」と書かれている。
「ちょっと待っててね~」
とこのみは外へ出ていく。数秒後に外から悲鳴のような馬の鳴き声が響き渡った。
「何…!?」
慌ててハマが外へ飛び出す。
馬は狂ったように暴れていた。そして、その横にあったのは…実物大と化した先程のミニカーだった。馬を宥めながら茫然とそれを見やるハマの横で、いつの間に移動したのかこのみがニコニコ笑っていた。
「『LOVE & PEACE号』っていう名前なんだ~良い名前でしょ?改造した観光バスなんだ!エンブレム押したら大きくなったりコンパクトになったりするんだよね!」
「ば…え…」
「いや~…エルザくんはまだ安静が必要だし、あんまり時間もかけられないからね!早速だけどハマくん、出発の手伝いして!あ!エルザくんまた動いてる!」
いつの間にか小屋の入口に立っていたエルザが、突如現れた巨大な乗り物を見てぎょっとしたような表情を浮かべている。このみは2人に向かって微笑んだ。
「さぁ!女王蜂を倒して、赤の国を救いに行くよ!」


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バビロン

第1話執筆お疲れ様でした^^
ハマ、良い役もらったなぁー。
皆さんがかっこよすぎて、ニヤニヤしちゃいました。
第2話も楽しみに待ってます。
続きの執筆頑張って下さい^^
by バビロン (2011-07-17 20:08) 

おとぎ

待ってました(´∀`*)
wktkが止まりません。
次の更新も楽しみにしていますね!
by おとぎ (2011-07-17 21:20) 

シア

今晩は、麻野恭子です。
おお!一話めが・・・!
さっそく読ませて頂きました^^
バルコニーの策略めいた静けさが何とも言えない緊張感を生み出して、ドキドキしっぱなしでした・・・!
二人の掛け合いや、内心に秘めているもの、上辺に出さないことで、より一層の謎めいた静けさを感じました。
風景描写が細かく、容易に情景を想像することができました。
その中に自分がいるような、間近で見ているような感じがしました。
また、文後半にかけてのわくわく感が半端なかったです・・・!!
いよいよ冒険スタートですね!!
続きがとても気になります・・・!!
執筆これからも楽しみにしております^^
これにて、失礼します。

(麻野恭子/無光人夢/@シュレル島)

by シア (2011-07-18 20:42) 

カルシー


第1話お疲れ様でした!
訪問させていただいたところ更新されていて
パソコンの前で一人ニヤニヤしていたのはこの私です←
なんというドキドキな展開!
素敵な共演者様たちと素敵すぎる世界観に
いまから興奮が止まりません(*´Д`*)
この方たちとうちのこが共演できること、
こんな素敵な世界でうちの子が冒険させていただけること、
嬉しい限りでございます…!
次のお話がとても楽しみです。
次回の更新も心待ちにしております。

by カルシー (2011-07-18 21:55) 

みぞれ

きたーーー!!!・∀・

(つД´)°。まってましたー!!

一人画面に顔をくっつけてる自分です(・ω・´)

もうドキドキワクワクです(°∀°)

素敵な小説の中で冒険!(つД´)°。嬉しすぎて涙が止まらないです!

次回の更新も楽しみにしています☆

では(・∀・)ノ
by みぞれ (2011-07-31 22:17) 

桃華★

一話更新お疲れ様でした(*´`)
ニ・・・ニーナかっけぇΣ(´∀`;)早速の我が子登場でワクワクしてしまいましたw
続き楽しみにしてます^v^執筆頑張ってください*応援してますv
by 桃華★ (2011-08-18 14:11) 

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