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夜明五戦士伝:参ノ話 [Livly長編;夜明五戦士伝]

遅くなりました!参ノ話です!
やっとあの人合流…やっと2人か…!
相変わらず戦闘シーンがアレな感じです。
何かありましたら突っ込みお願いします。



《 赤の国「深紅の城」、中央塔1F、謁見の間 》
白亜の一室。
床には赤い絨毯が引かれている。両壁に10本ずつ並ぶ大きな縦長の窓から西日が差しこんで、薄赤と濃赤のコントラストが美しい。
身体にあわない長く赤いローブを身にまとい、大きな冠を右手で押さえながら、左手に大きな兎のぬいぐるみを抱えたホォリィはその玉座に腰かけていた
少しつまらなそうな表情である。
何故かといえば、遊び相手が居ないからだ。
人間であっても、脳喰いであっても、ホォリィと遊ぶものはたいていすぐに壊れてしまう。また、ホォリィ自身、飽きてしまうとすぐに壊してしまう。つい数分前に壊してしまったライオン型の脳喰いは玉座のすぐそばで塵となり、堆積していた。
この前、新たに創った「部下」は全員、偵察に向かわせてしまったし…
「王様ごっこの気分はどうだ?」
遠く離れた厚い木製の扉の向こうから声が響く。ギィィィ…と重苦しい音を立てながら開く扉の向こうには、随分とラフな格好をしたニーナが居た。
「え~?つまんないよ。よくこんな退屈な事できるよね、王様。しかも何か動きにくいし」
「…動きにくいのはお前が身の丈に合わねぇ格好してっからだろうが」
呆れたように呟き、腕組みをしたままニーナは近付く。
「それとなぁ…退屈なのはお前がすぐに殺すからだろーが。いくら脳喰い…敵とはいえ、殺された奴らが哀れだよ」
ホォリィは手を叩いて笑った。おかしくてたまらないという様子で足をバタバタ動かした。
「王様は、要らないモノを『可哀想』って思う?」
「…それと同じだってのか?お前が殺すのも」
「殺してるんじゃなくって壊してるんだよぉ~後、たいてい壊す前に壊れちゃうしね…」
狂ってる。ニーナは眉間に深い皺を作った。人間の皮を被った化け物、それがこの目の前に居る子供なのだ…そう思うと背筋に冷たいものが走る。
そんなニーナの様子も気にせず、ホォリィは冠を手に取り、弄び始める。
「目覚めた時にこんな面白いゲーム盤が用意されてるなんて、僕はホントについてるよ」
「…ゲーム盤、だと…?この状況を、お前は!」
「ゲーム以外の何だっていうの?」
ホォリィの手の中で、硬いはずの王冠が粘土のようにぐにゃりと曲がる。それを投げ捨て、彼はニーナに微笑んで見せた。
「それに、なかなか壊れそうにない『おもちゃ』も見つけたんだぁ…でもそれは今は手に入らないから、王様で我慢してるんだよ?」
ホォリィと対照的に硬い表情を浮かべたニーナは、足元に転がって来た王冠を足で弄ぶ。
「…生かされてる事を忘れない方が良い。王様も…あの家臣もね」
「…うるせぇ…」
ガン!
ホォリィの頭の少し上、王冠が玉座に当たって鈍い音を立てる。それはそのまま跳ね返り、床の上に落ちる。衝撃は吸収され「ぽすん」という音しかしなかった。
「お前も忘れんな…人間なめたらひどい目に遭うぞ。いや遭わせる」
2人は一瞬睨みあう。
そしてローブも王冠も無いパーカー姿の若き王は、踵を返して出ていった。

《 赤の国領内、シナバー村、村役場地下1階、牢獄 》
エルザが目覚めた時、そこはベッドでは無く、硬く冷たい石の床であった。
目を瞑っていたためか妙に夜目が利く。天井は木製でなく、やはり石造りで暗かった。
一瞬では状況理解は不可能だった。順々に思い返してみる。
…ミディーバル町を出て3日。昨日シナバー村に到着し何ら問題無く関所を通過。宿を取った。食事は4人で宿内にて。その直後いきなりの睡魔に襲われ各々の部屋で休息を―
何故いきなり、こんな事に?
手枷は付けられていない。しかし右足は重たい。足枷は付けられているようだ。怪我も増えておらず、治療中の胸の傷も開いてはいない。服装は昨晩ベッドに入った時のまま―レザーアーマーと武具を身につけていない、軽装である。
「起きた?」
右側から聞き覚えのない女の声が響く。ゆっくりとそちらを向くと石壁に寄り掛かる1人の女性の姿があった。「物語に出てくる『魔女』のようだ」と、エルザは彼女をまじまじと見つめる。軽くウエーブした長い髪の毛、ケープにロングスカートといった身体を隠す服装。吊り目がちな整った顔には涼しい微笑みが浮かんでいる。
「…貴方は?」
ゆっくりと起き上る。足元で鎖がじゃら…と鳴った
「フレイシア・オードール。フレイシアでもオードールでもご自由に。えっと?」
「エルザと呼んでほしい。…オードール殿、その…」
「んー…牢獄としては丈夫そうで良いデザインよね?」
体育座りのまま辺りをぐるっと見回したフレイシアは、のんびりと返した。エルザが思わず脱力する。そういう意味では無くて…
「私たち以外にも、仲間も居るし?」
フレイシアが指差す方向を見ると、鉄格子と通路を挟み、向こう側にも牢獄と捕らわれ人の姿を認める事ができた。そちらの人々はまだ、この状況に気がついていないのか眠り続けている。エルザはしばらく彼らを見つめ、思わず呟いた。
「…ハマ?このみ殿に…ベルフェ殿?」
あまりにも見知った姿を認め、エルザが両手で鉄格子を掴む。ガシャン!という音が響き、前の牢獄内で「う~ん…」という唸り声やゴソゴソという音が響きはじめる。
「腰痛…ってあれ!?」
「何が一体どうなっ…ってエルザ様!?」
まず始めに起きたこのみとハマが賑やかに鎖の音を響かせながら身を起こす。このみが爆睡するベルフェをゆさゆさと揺らすと、仰向けに眠っていた彼がアイマスクだけをずらす。
「…フレイシア…さん?」
「ん?…あ~!ベルフェにこのみ!あんた達どうしちゃったの?」
フレイシアが四つん這いでよちよちと鉄格子に寄っていく。ベルフェが耳栓を外しながら腹筋のように身を起こした。
「その言葉、フレイシアさんにそっくりお返しします!」
「おれたちも人のこと言えないけどね!」
囚人たちが賑やかになったのを聞きつけた数名分の足音が、ゆっくりと近付いてくる。
「…どうやら、説明してくれるようですね。…何故俺たちがこんな事になっているかとか」
投げ入れられていた眼鏡をかけながら、ハマが呟いた。

「め、目覚めたか。毒婦の一味よ…!」
震える槍―粗末な石槍や、場合によっては木の槍―が突き付けられている。5人の男に守られるように、その高齢の男性は震える声で第一声を上げた。「毒婦」の一言で、このみとベルフェの目線がフレイシアに素早く向く。
「何その疑いの目は~!そんな余計な事する人間に見える?」
「う…黙れ黙れぇっ!」
高齢の男性はなおも震えながら声を裏返して叫んだ。エルザが「納得できない」と、自らに槍をつきつける男たちを睨みつける。
「『毒婦』とは何だ?何故我らがその一味とされねばならないのだ」
威圧感に溢れるその声に檻の外の人々が震えあがる。だが、高齢の男性だけはエルザを睨み返した。
「とぼけても無駄だ!お前達がいちばん知っておろう!この村にかけた呪いを!」
「呪い?」
困惑したようにハマが尋ね返す。男性は顔を真っ赤にしながら憤慨した。そして、興奮した様子で叫びはじめた。
「ならば聞くが良い!お前達の行った悪行の数々、改めて教えてやる!」

高齢の男性の話を要約且つ客観的にまとめるとこうなる。
約2週間前、シナバー村に1人の妙齢の女が仕切る総勢10名の旅の一団がやって来た。彼らは特に何をするでもなく2日程で旅立った。しかし彼らが旅立った後から村を奇妙な病が襲った―

「胸から植物、か…」
ベルフェが高齢の男性の言葉を小さく復唱して、尋ねる。
「何故その一団が犯人で、且つその一団が僕らだと考えた理由は?」
彼らは一瞬ぐっと詰まった。確たる証拠は無いらしい。しかし、槍をベルフェに突き付けていた男が突如として叫ぶ。
「それは、お前達が旅人だからだ!」
場が一瞬凍りつき、その後誰かの「はぁぁぁぁ!?」という声が響いた。
「そうだ!お前達は旅人だ!その女は医師!あの女も医師を名乗っていた!一団の中にはお前達っぽい人間も居た!こんな偶然があるか!」
「ふざけるのもいい加減にしろ!そんな曖昧な理由で我々を拘留したというのか!」
「そうだよ!だいたい犯人だったとして目的も戻って来た理由もわからないよ!?」
「…きっと、村全体が弱った時に再び戻って来て、治療をし、金をふんだくるつもりだろう!もしくは宗教に引きずり込むか!」
「どちらにしてもそんな回りくどいことをせずに、もっと効率的な方法があるでしょう?」
「おー、ベルフェが私みたいなこと言ってるー」
「とにかく…俺達にきちんとした弁解をさせて下さい!こんなの不当だ!」
「ええい!黙れ!」
高齢の男性がつばを飛ばして叫んだ。
「とにかく!お前達は犯人だ!絶対にしかるべき罰を与えてやるからな!」
そしてまわれ右をすると慌てたように出て行った。

《 2日後、赤の国領内、シナバー村、村役場地下1階、牢獄 》
エルザは牢の中をイライラと歩きまわっていた。
このみは腕組みをして、困った顔をしていた。
ベルフェは口元に手をやって壁によりかかっていた。
ハマは足を伸ばしたまま、黙って反対の壁に寄り掛かっていた。
それぞれがそれぞれの形で焦り何かを考えている中、フレイシアは非常にマイペースにパンをかじっていた。
「そんなに焦ってもどうしようもないでしょーが」
事態は完全に膠着していた。5人を罰するにしても、何かさらにまずい状況が発生するかもしれない。それに、自分たちを苦しめる奇病はいかにすれば治るのか。そもそも5人が捕まった後も奇病は蔓延しているらしい。
「しかし…五戦士が2人も揃っているというのに…!」
エルザが非常に悔しそうに呟く。2日もあれば色々な話を聞けるものだ。
例えば自分と共に捕らわれている人間が、探していた2人目の五戦士であるという事とか。
このみやベルフェと親しげに会話している様子を見て予想はできていたが、フレイシア・オードールは火行の戦士、つまり五戦士の1人だった。
「五戦士があと3人居るって事、忘れてない?あんた達の言ってる通りの規模の被害だと、流石に私とベルフェだけじゃどうにもなんないから。それに私はまだ、あんたの国を助けるとは言ってないからね」
冷静なフレイシアの言葉に、エルザがぐっと詰まる。彼女は常に冷静で客観的で…それが逆に、エルザの逆立っている神経をかき乱していく。小さな冷戦状態となった檻の向こう側で、このみは「ん~」と首を傾げる。彼の目線の先には、相変わらず体勢を変えないハマの姿があった。不審に思ってこのみはハマに近づき、額をくっつけた。ベルフェが「どうしたの?」と声をかけかけた時、このみが叫んだ。
「大変!すごい熱だよ!?」
その言葉にベルフェも、向かいの檻のエルザも反応した。
「何だと!?」
「静かすぎると思ったら…無理を…」
そんな3人の様子を、フレイシアは黙って見守っている。ハマは非常に苦しげに「大丈夫です」とこのみを退けようとした。が。
「!?っあああ!」
このみは思わず身体を反らす。ハマは胸を押さえながら、前のめりになって苦しみはじめた。ベルフェがこのみを押しのけ慌ててハマへ寄って行く。フレイシアは何かに気が付いたような表情を浮かべたが黙っている。エルザが檻を掴み、悲痛な声を上げた。
「ハマっ!」
「しっかり…!?」
ベルフェと、その後ろのこのみが息を呑む。ずるりと床に滑り落ちたハマの身体。その胸から伸びるそれを認め、エルザもまた愕然とし、息をのむ。
先端に大きな膨らみを抱く、緑色のつるりとした棒状のもの―
ハマの身体に突如として生えた花の茎、蕾。
それはまさしく、村長らが語っていた奇病そのものだった。

「流石に、仲間を病気にするようなミスとかはしないと思うんだけど?」
フレイシアの冷静な指摘に村長はぐっ…と詰まる。槍を持って村長の周囲を守るように立つ人々も、戸惑ったようにハマの胸から伸びる植物を見ていた。
「しかし…」
2日前に5人を糾弾した村長がなおも言いつのろうとする。しかしエルザがすごい表情で睨みつけているのを見ると一瞬びくりとして、口ごもってしまった。その時。
「あーっ!」
突如として大声を上げたこのみに全員の視線が向かう。彼はベルフェと共にハマの容態を見守っていたのだが、そうしながらも「何か」考え事をしている様子もあった。
「このみ!?一体どうしたの?」
すぐ近くに居たベルフェが思わず耳を押さえる。エルザも、檻の外の人々も、突然の大声に困惑している。そんな中、フレイシアがゆらりと立ち上がり檻のすぐ近くまで歩いた。
「何か、気配を感じたんでしょ?このみは」
「うんうんそうそう!何かすっげー怪しい気配があったからずっとたどってみたんだけどさ、やっとたどりついた!」
「怪しい気配?」
エルザは一瞬首を傾げかけたがふと思い出す。そういえばミディーバル町でも1番初めに脳喰いの気配に気がついたのはこのみだった―
「…このみ殿、つまり…この奇病には脳喰いが関わって…?」
「そう!」
「何を馬鹿な事を!」
槍を持った男の1人が叫ぶ。にわかには信じられないだろう。脳喰いの気配を感じる能力など。しかし、このみは500年前から生き続ける口伝士。五戦士を支えるために、それだけの能力は当然持っているのだ。
「でも、今はそれにすがるしか無いんじゃないの?手掛かり無いんでしょ?治療法の」
フレイシアはにっこりとほほ笑む。男達はぐっと詰まった。
「取引しましょう」
「伝説の五戦士」のあんまりにもあからさまな取引を見てエルザは思わず眉間に皺を寄せ、このみとベルフェは苦笑いを浮かべた。

《 赤の国領内、シナバー村付近、深緑の森 》
森は深い。村長たちの話によると、商人や旅人はもっと広くひらけた道を進むので、森の奥に入る者は秋期に動物を狩る猟師以外そんなに居ないという事だ。
そのため、誰かが草を踏み分けて作ったらしいその獣道は、非常に分かりやすい手掛かりとなった。
「こっちだよ」
ゆっくりと先を進んでいくこのみの後ろを、大分消耗した様子のフレイシアが大きな革張りのトランクを持ちふらふらとついて行き、レザーアーマーとロングソードを返してもらったエルザがしんがりを務める。

フレイシアが行った取引は「自分たちが何とかするから、全員を解放しろ」というものだった。しかし村長たちの中から完全に疑いが消えたわけでも無かったらしく、動けないハマの他にもう1人に残せと返された。つまりは人質だ。その台詞が言い終わるか位の恐ろしく早いタイミングでベルフェが立候補して、他3人は自由の身となった。

「…オードール殿、大丈夫ですか?」
運動は苦手なのか「しんどい…」と息をつくフレイシアに、エルザが声をかける。少し俯き加減のフレイシアがエルザをちらっと見て答える。
「運動不足だったかもね…牢屋に1週間入ってるだけでまさかこんな…」
服装にしろ荷物にしろ、それ以前の問題にも見えたがエルザはあえてそこは言わなかった。
「それにしても…あー、ベルフェにはしてやられたわ」
「してやられた…?」
あまりにも唐突なひと言に、エルザも流石に聞き返す。フレイシアは悪気も何も無い様子で言葉を続ける。
「あいつ、私が逃げないようにわざと人質になったみたいね…あんたたち2人を残していけば、私が逃げること見越してたみたい」
フレイシアが言いたい事を理解したエルザは目を見開いた。怒りをおさめようとしたが、無理だった。つい口調が激しくなる。
「何故!そんな事を!」
「あんた連れて行けば絶対に『脳喰いを倒す!』って言いだすでしょう?何でわざわざ危険に飛び込まないといけないの?全く関係も無い村のために」
「五戦士しか、脳喰いは倒せない!…無力な人々をまざまざと見捨てるつもりか!?」
怒りで顔を真っ赤にするエルザに対し、フレイシアは表情を全く変えない。むしろ息も整ってきて先ほどより舌もなめらかになった。
「逆に聞くけど…あんたはどれだけ拾っていくつもりなの?」
「どういう意味だ!」
落ち着きなさいよ…と少々あきれ顔で呟いたフレイシアは、スッと背を伸ばして、エルザの顔を真っすぐ見つめた。黒色の瞳がエルザの姿を映す。
「あんたの国と、このシナバー村。どちらかしか救えないっていったらあんたはどっちを救うのかって話」
価値観を問うような突然の質問にエルザは言葉を失う。しかしやがて、ためらうように、ゆっくりと口を開いた。
「私は赤の国の騎士団長だ…その立場から考えれば、明らかに赤の国を優先しなければ…」
「じゃあ、あのハマっていう子は見捨てなさい」
「貴様ぁっ!」
怒りのあまり思わずロングソードに手が伸び掛かったが、ぐっと堪える。2人が付いてこない事に疑問を感じ、振り向いたこのみが草に足を取られながら慌てて駆け寄ってくる。
「どうしたの!?2人とも」
ただならぬ気配を察して間に入ったこのみは、きょろきょろと2人の顔を見比べる。フレイシアはエルザの怒りを受け流すように淡々と返した。
「それが『選択する』という事。赤の国を本当に救いたいのなら、本来この村は放置して先に進むべき。それは、ひいてはあんたの従者を切り捨てるという事につながる。でもそれは、決して『悪』という事では無いでしょう?」
「フレイちゃ…」
「このみ、黙ってて。…全てを救うなんて事そもそも不可能で、何かを得るためには何かを切り捨てないといけない。普通はね―ま、もっとも今回はベルフェも居るから、最後までやるしかないけどね」
言い終わると、フレイシアはこのみに「行きましょう」と声をかけてそのまま、まわれ右して進み始めた。血が出そうなほど強く両手を握ったエルザは心配そうなこのみをよそに、ゆっくりと進みはじめた。

《 赤の国領内、シナバー村付近、深緑の森奥、猟師小屋 》
猟の時期にしか使われない森の中の粗末な猟師小屋の中で彼女はほくそ笑んでいた。
自分の身体に大量の生命エネルギーが吸収されていっているのが自分でもよく理解できる。…村に播いた『種』が上手い事広がったみたいね…
彼女の9名の部下たちも、めいめいに『種』を播き、エネルギーを上手に吸収しているらしかった。この調子であれば、シナバー村を含めこの近辺数個の町村が手中に収まるのも時間の問題だろう。
「そういえば姐さん。この前ミディーバルで『獣使い』がやられたらしいですよ」
部下のひとりである大柄な男がゲラゲラ笑いながら報告した。
「派手にやりすぎたわね…私たちみたいに堅実にやれば良か…」
その時、まっ暗かった小屋に一筋の光が差し込んだ。それと同時に5名の部下の身体が何の前触れもなく発火する。
「な…何が起こった!?」
突然の出来事に全員がパニックに陥る。すさまじい紅蓮の炎は悲鳴を上げる暇も与えず部下たちの身体を焼き尽くし、始まった時と同じように唐突に消えた。炭化した身体が崩れながら、白い塵と化す。
「あー…さすがにいっぺんに全員は無理だったかー…」
ドアが開け放され午後の光が部屋を照らす。
逆光の中に佇む人物の中に、彼女は強大な炎の気配を感じ取った。
「…何で、こんな所に…!」
「んー?九割九分九厘くらいあんたのせいでね。それにしても…全っ然似てないし」
飄々とした様子でその人物は小屋の中へ入ってくる。部下たちは彼女を守るように構えた。
「足止め食らったからちゃっちゃと行くよ?」
面倒くさそうな表情を浮かべた人物―フレイシア・オードールは、あくまでも自然体で、そう宣言した。

《 赤の国領内、シナバー村付近、深緑の森奥、猟師小屋から少し離れた森の中 》
木に寄りかかるように体育座りをしたエルザを、その前にしゃがみこんだこのみは心配そうに見ていた。エルザは唇を噛み、難しい表情で何か考えている様子だった。
「…さっき『突入する時邪魔だから』って言われたの、怒ってる?」
トランクから数本の瓶と数本の注射器を取り出し、フレイシアは1人で行ってしまった。…脳喰いは五戦士しか倒せないので当然といえば当然の措置だったのだが。エルザは黙って首を振った。このみはしばらく考えて「あのさ…」と再度声をかけかけたが、その前に姿勢を変えないままにエルザが呟いた。
「…フレイシア殿が言っている事は間違ってはいない。あの時は感情的になってしまったが…実際、時は一刻を争う。国を救うためならば…血生臭い話だが、あの場で村長らを斬り捨て他3人の五戦士を探しに行くのが正しい選択だったかもしれない」
表情は硬かったが、自嘲では無く、冷静な口調だった。
「しかし、私個人としては大を救うために小を切る事はしたくない…それにハマも、国王も私にとっては―」
ドン!
エルザが言いかけた時大きな爆発音が森に響く。鳥がバサバサバサ…と飛び去って行く。もうもうと黒煙が湧きあがり、巨大な蔓のようなものが伸びあがっているのも見える。
「…!フレイちゃんが行った所だ!」
このみが立ちあがると同時に、その横を駆け抜けて行く旋風―
「えええエルザ君!?ちょっと待ってよ!」
飛び出して行ったエルザを、巨大なトランクを持ったこのみがよろよろと追いかけた。

《 赤の国領内、シナバー村付近、深緑の森奥、猟師小屋 》
それは想定外の展開だった。
小屋の中にはヒューマン型の脳喰いが10人。内5人は不意打ちで倒し、残りの4人もフレイシア特製の薬と五戦士としての能力を駆使して倒した。残ったのは顔に幼さを残す若い女―これが彼らをまとめるボスだったらしい。戦闘は苦手らしく、次々とやられていく部下たちの姿を部屋の隅で震えながら見ていた。
「あの植物は、あんたたちが力を蓄えるための能力のひとつだった…って訳ね」
フレイシアは土間に散らばった塵を踏みしめながら、彼女に近づいていった。彼女は震えながら怯えた瞳にフレイシアを映す。口が言葉にならない何かを発している。
「つまり…あんたを倒せば全て解決って事でOK?」
近づくと、彼女が何かを言っている事に気がついた。
しかし、あえて余計な詮索は何一つせずフレイシアは全てを終わらせる事にした。
が。突如としてマリオネットのようにゆらり、と彼女は立ちあがり、どこから発せられているのかという凄い声で叫んだ。
「螺旋の民万歳ッ!救世主ホォリィさま、ばんざぁぁぁぁいっ!!」

エルザが辿りついた時、少しひらけたその場所に建物らしきものは見当たらなかった。
あったのは周囲の木々程の高さに伸びた巨大な植物と、それの蔓に下半身を絡まれ、今にも持ち上げられかけているフレイシアの姿だった。
「フレイシア殿!」
呼びかけながら、駆け寄りながら、エルザは剣を抜いた。
フレイシアを捕えていた蔓がスパッと切られる。右腕にフレイシアの身体を抱いたまま、エルザは数メートルの間合いを取って、蔓を切られて暴れる植物と向かい合った。
「どうして此処に…」
「今貴方に死なれては困るからだ!貴方には、村も国も救ってもらわねばならない!」
「相変わらずね。こんな状況で…」
「こんな状況だからだ」
剣を構え、植物と向かい合ったまま、エルザは自分語りをはじめる。
「私にとって、国を救うこともシナバー村を救う事も、我が家族を守る事に変わりない」
「…人類皆兄弟って事?」
呆れたように呟くフレイシアの言葉に、エルザが「いいや」と首を横に振る。
「赤の国の現国王ニーナ・ダヴィド・ヴェルガァシャは、我が実弟だ。そして、現王側近にして我が部下でもあるハマも、腹違いの弟だ」
僅かな迷いも無く語られた真実を理解し、フレイシアは納得し、微笑む。
「成程ね…文字通り『家族を守る』って事になるか」
「…公私混同の愚か者と笑ってもらって構わない。しかし…最後に残っている血縁かもしれない弟たちを守りたいと思う気持ちを、私は否定できない!」
エルザに切られて塵と化した蔓が生えていた部分が再び復活している。やはり普通の人間の攻撃は決定的なダメージにならないのだ。エルザは歯を食いしばる。
「確かに。国政に関わる人間としては、公私混同かも」
涼やかな声がエルザの耳元に響く。先ほどまで腕の中に居た筈のフレイシアの姿が無い。
「でもね…私は、優等生よりもそういう人間の方が好きなの」
いつの間にかエルザの前に出ていたフレイシアが、振り向いて微笑む。それは丁度、村長に取引を切りだした時の表情と同じだった。
蔓が再び、フレイシアとエルザの方へと向かってくる。
「言ったでしょ?…『足止め食らったからちゃっちゃと行く』って」
言葉の間に瞳の色が変化していく。闇のような黒が、炎を湛えたような激しい紅蓮に。それとほぼ同時に、胸の中央部を中心に全身に赤い気配を纏ったフレイシアが、ぼろぼろになったケープの中から1本の瓶を取り出し宙に放つ。
「これ、私の能力に合わせて作った燃料ね。…試させてもらうわ」
無色透明な液体が、瞳と同じ赤色の光を帯びる。
パリン。
軽い音を立てて瓶が割れる。割れると同時に火炎放射が放たれる。
蔓は2人に届く事無く、それどころか直進してきた火炎放射に本体を焼かれた。
強い光に、エルザは思わず左腕で両目を庇い、身体を反らす。
ゴォォォォ!
耳に響く音に反応し、エルザは左腕を退けながら正面を向いた。
巨大な火の柱が、助けを求めるように2本の腕を空に仰ぐ。
それを背景にしてフレイシアはにっこり笑った。
「ま、あんたの国で使えるでしょ?もうちょい調整は要るかもしれないけどさ」

《 赤の国領内、シナバー村付近、深緑の森、『LOVE & PEACE号』内 》
全てが終わって2日後、奇病も治まり、5人の疑いも何とか晴れ、それでも人々の目は冷たかったので、一行は大急ぎでシナバー村を出発した。
「結果オーライ…って感じだね」
LOVE & PEACE号の入り口階段に腰掛けたベルフェが運転席のこのみに話しかける。このみも「本当にねぇ」と心底嬉しそうに頷く。2人の背後には、また無茶をしたエルザに淡々と説教をするハマとそれを受け流そうとするエルザ、そんな2人の様子などどこ吹く風で何かを調合するフレイシアの姿があった。
「それにしても、何でいきなりフレイシアさんとエルザさん、仲良くなってるの?」
「ん~…おれが着いた時にはもう、打ち解けてたからよく分からないんだよね」
このみとベルフェがそんな会話をしていると、背後からいきなり「「うわぁぁ!?」」という悲鳴の2重奏が響く。ベルフェが振り向くと見覚えのある光景が繰り広げられていた。
「いや~あの村のやつら勝手に殺してて!もー最悪だわ…って何でそんなに引いてるの?」
「蛇が!?フラスコの蛇がいきなりぶわって膨らんで!?」
「フレイシア殿!?首に蛇が!蛇が!」
「あんまり騒ぐとアレキサンダー驚くか…あ、もー駄目だってアレキサンダー。勝手にこのみの首に巻きついたりしちゃー。びっくりしたのは分かるけど」
「うぐぐぐぐ…!」
「このみー!?」
バスは蛇行しながらも次の目的地へと向かって走って行く。

五戦士集結まで、あと3人…

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バビロン

今晩は。
執筆お疲れ様です^^
3話目ヒヤヒヤしました・・・。
ハマ、道中で死んじゃうかと思った。うぁーん
泣いちゃうかと思ったー。けど良かった。まだまだ一緒にこのみさんたちと旅できて^^
ハマも、たまにはかっこよく戦ってほしいってのが、願望w
武器も使ってほしいなー。

では、4話も楽しみに待ってます!
by バビロン (2011-09-27 21:05) 

シア

こんにちは・・・!
執筆お疲れ様です!
最初から、王と脳食いの主との緊張場面でドキドキしました・・・!
しかもその次の場面が牢獄で、「!?」といった感じでした。
何事!?と思ったら、事件が・・・!
これだけのことがあると、村の外の人間を疑いたくなる気持ち、よくわかります。
主人公たちにとっては、えー・・・ってなってしまうと思いますが(笑)。
一時はハマさんのことがどうなってしまうかと・・・!!
フレイシアさんの冷静さ、そして戦闘時の魅力にめろめろでしたvvv
エルザさんとフレイシアさんの会話にあった、現実と心情の問題、あれはこういう戦闘場面において必ず出てくる難題ですよね;;
どちらも折れることは出来ないし、・・・仲間割れになるのか!?と思ったら、フレイシアさんが理解を示してくれて・・・!
これぞ仲間だ!!と思いました^^

これからも執筆、楽しみにしております!
寒くなりましたが、お身体の方お気を付け下さい!
それでは、失礼します。

by シア (2011-10-02 09:58) 

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