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夜明五戦士伝:五ノ話 [Livly長編;夜明五戦士伝]

大変遅くなりまして…
申し訳ないです。
あー…そして今回もオリキャラ出張ってます。

《 赤の国「深紅の城」、中央塔1F、謁見の間 》
謁見の間に入ってきた金髪の機械工らしい男と、短髪の身軽そうな女の姿を見て、王座の肘掛に寄りかかっていた優男が「チッ」と舌打ちする。
「ったく…俺を差し置いて遅刻すんなよ!とっとと俺を解放しろ。待たされすぎて欲求不満なんだよ」
「お、エルクも欲求不満なのかー!俺も俺も!欲求不満すぎてあのでっかいライオン倒してたら遅くなった!」
「…餡兵衞、てめぇ翠止めろよ!」
「何で俺!?あと翠、こいつの言ってるのと、お前が言ってる欲求不満って多分違うから!」
「はいはいはい!お喋り止めて~」
王座に座ったホォリィが手をぱんぱん!と叩き、彼ら3人を黙らせる。王座に寄りかかりっぱなしの優男―エルクは腕を組んでホォリィを見下ろす。
「何の用だいきなり…ってかブレインとシャルルはどこに居やがる」
「ん~、それも含めて、ちょっと報告をしとこうかなって」
餡兵衞と呼ばれた金髪の男が真面目な表情を浮かべ、彼の背後で1人トリッキーな動きを繰り広げていた身軽そうな女―翠もバク転で3人の所に近づいていき、ホォリィの目の前で着地した。それを確かめ、ホォリィは口を開いた。
「『わるものあそび』計画はすごーくスムーズに進んでる。五戦士も揃いつつある…『螺旋の民』の信者たちは本当に真面目にいろんな事やってくれるよね~」
「じゃあ、俺たちが五戦士と戦えるのも、もうすぐなんだな!」
遠足前の子供のように翠が瞳を輝かせ、ホォリィは頷く。
「でもちょっと問題がね…ほら、キミたちの次に強い、あのオネーサン居たでしょ?」
「あ~…『血塗れのスノーホワイト』か?燈の国の英雄の…」
餡兵衞が思い出しつつ説明を入れ、興味なさそうなエルクが「で?」と話の続きを促した。
「あの人、裏切っちゃってさ~各地で強い脳喰い壊しまくっちゃってるんだよね~」
「んなのとっとと殺しちまえば良いじゃねーか」
「うん。だから2人に行ってもらったんだけどね。けど問題はそれだけじゃなくって」
イライラとしはじめたエルクがホォリィを睨みつける。それを軽くかわしながら、ホォリィは場にそぐわない微笑みを浮かべた。
「思いもかけない相手と手を組んじゃったんだよね~ヒヒヒッ」
「思いがけない相手?」
餡兵衞と翠が首を傾げ、エルクは「ためんな!」と半切れで王座の側板を蹴った。

《ケルメス村、宿屋兼酒場「早馬の脚休め」》
「ことばぁぁぁっ!?」
「スノーホワイトだと!?今スノーホワイトと言ったな!」
このみとエルザがほぼ同時に叫ぶ。あまりの権幕に、カウンターの向こう側に居た店主が思わず耳をふさぐ。ハマも五戦士たちもぎょっとしたような表情を浮かべた。
ブルージュ小国を出発して1週間、4人目の五戦士の気配を追って5つほどの町や村を通過した。このみ曰く、確かに通過した感じはあるという。しかし未だ合流は出来ていなかった。その代わりに伝わってくるのは「脳喰い喰い」の話である。
1人なのか2人なのか、男なのか女なのか、子供なのか大人なのか、そうした事は噂によってまちまちだったが、多くの人々が彼らを「脳喰い喰い」と呼んだ。
そして、ここに来て「2人組の脳喰い喰いを宿に泊めた」という宿屋の主人が現れたのだ。
ハマにたしなめられて、何とか落ち着いた2人はカウンターの丸椅子に腰を下ろした。
「ちっと前にこの村が脳喰いに襲われてなぁ…家畜だけじゃなくって、戦おうとした若いモンや逃げ遅れたのが数人、喰われちまったんだよ。住み処だけは分かってたんだが当然倒しに行けねぇ。そんな時に現れたんだよ『脳喰い喰い』が」
主人がうっとりと、まるで自分の事のように誇らしげに語る。
「燈の国の紋章―ほら、あのヒマワリみたいな模様の、あの紋章が入った銀鎧を着た若い女と、ちっこい狐耳の男の子の2人連れだった。自分たちは貴方がたの言う脳喰い喰いだって言って、住み処まで案内してほしいっていうんだよ。最初は半信半疑だったけどよぉ…たまげたぜ。快刀乱麻の大活躍だ!あっという間にぜーんぶ倒しちまった!」
「ちょっと待ってくれ。それは、小さい獣耳の男の子のほうか?…」
主人の話から強い違和感を感じ取り、エルザが尋ねた。主人は首を横に振る。
「いんや。女戦士の方がスッパスッパいってた気がすんけどなぁ。男の子は魔法か?何か不思議な技を使っていたよ。ともかく、全部倒してくれたんだ!こりゃあ凄ぇ英雄様だぞって訳でなぁ!村総出でもてなしたさぁ!…まぁ次の日には旅立っちまったけどな…」
主人の答えに他の仲間たちも絶句した。

《 ケルメス村付近、深緑の森内、『LOVE&PEACE号』車内 》
街道の端に停めた『LOVE&PEACE号』の中で、一行は情報の摺合せを行っていた。エルザとハマはことばという五戦士を知らず、五戦士とこのみは女戦士についてよく知らない。
「ことばくんは水行の戦士。キツネの半獣人でね、耳がキツネ耳で尻尾が生えてて…で、魔法が使える。見た目は子供だけど…」
「…待ってください。昔話だと『高齢の魔法使い』って…」
このみの説明に対し、ハマが質問する。
「『魔法使い』っていうと年寄りのイメージがあるから、伝えられていく内に変わっていったのかもしれません…ことばが五戦士になったのは12歳の頃だったっけなぁ…?」
「ああ。しかもたいてい年相応に見られない。…見た目だけだったらもっと幼く見られる事もしょっちゅうだったな。本人は不本意だったらしいが」
ベルフェと人夢の言葉にハマがこっくりと頷く。宿の主人が言っていた「男の子」というのがことばであることはほぼ間違いなさそうだ。
「で、スノーホワイトってのは誰?」
「燈の国の戦士だ。別名『血塗れのスノーホワイト』。燈の国の七英雄のひとり」
フレイシアの問いにエルザが淡々と事実だけを述べる。どうにも様子がおかしい。
「…普通の人間だよね?」
このみの問いに「ああ」とエルザが頷く。そして、戸惑い気味に尋ね返した。
「このみ殿…脳喰いを…普通の人間が倒すことは不可能なのだろう?脳喰いを倒せるのは…五戦士だけ―」
「いや、その…」
恐る恐る、いつもと様子が違うエルザを気遣いながら、このみが告げる。
「脳喰いは、脳喰いなら…倒せる。もしかして、そのスノーホワイトって人は…」
「そうか…すまない。ちょっと、外に出てくる…」
全てを聞き終わる前に、エルザはふらふらと立ちあがるとバスの外へと出た。全員が顔を見合わせ、ハマの方に目線を遣る。彼の表情も曇っていた。
「スノーホワイト様はエルザ様の幼馴染で…親友、なんです」

《 ケルメス村付近、『LOVE&PEACE号』付近、深緑の森 》
「エルザ様。あまり遠くへ行かないで下さい…危険です」
『LOVE&PEACE号』の巨体が見えにくくなった深緑の森の少し奥まった場所である。エルザは倒木に腰掛けてぼんやりと考え事をしていたようだった。
「…すまない…少し、気が動転した…」
ハマはエルザから数センチ離れた場所に並んで腰かける。彼の声に反応したエルザは普段と変わりのない様子で振舞おうとしたが、相変わらず顔色が悪い。
「…スノーホワイト様と行動を共にしている五戦士は、脳喰いに脅されて悪事を犯すような方ではないそうです。脳喰いになっていたとしてもスノーホワイト様の気質や性格はそのまま…何かよっぽどの事情か、何らかの誤解があるかもしれませんし…」
やはりフォローにはなっていないようだった。無理矢理納得しようと「そうだな」と何度も頷くエルザの顔色は、やはり悪かった。
…しばらくは何も言わない方が良いか。ハマは判断する。このみも近くに危険な気配はそんなに感じられないと言っていたし、いざとなったら自分が脳喰いを気絶させれば…
よく考えてみれば、ハマ自身も冷静な判断が出来ていない。しかしハマ自身も「知り合いが脳喰いになった確立が高い」という事実に動揺していた。だから気が付けなかった。
自分たちの頭上に危険が迫っている事に。
「エルザくん!ハマくんっ!逃げろーっ!」
このみの叫び声。ほぼ同時に2人の頭上から降ってくる黒い無数の塊。
その内のいくつかが塵となり頭に降り注いだ瞬間、エルザもハマも自分の置かれた状況に、弾かれたように立ち上がる。
その目の前に、その頭上に、ヒヒのような脳喰いが迫る。
『Love&Peace号』の方向に逃げられない。
ツォルンも、フレイシアも、人夢も、次々と敵をなぎ倒している様子だったが、いかんせん数が多すぎた。
「エルザ様っ!」
「ギッ!!キキキーッ!」
乾いた拳銃の音とハマの声、脳喰いの悲鳴と威嚇が背後で交差する。ロングソードを持たないエルザはバトルアックスを取り出す。自分に迫ってきた脳喰いに振りおろす。真っ二つになり、鮮血を拭きだしながら空を飛んだ脳喰いだったが、地上に着地する前に元通りの姿となった。その目にはエルザへの明確な敵意が込められている。
「キーッ!」
何かの合図だったのだろう。木の上からさらに無数の脳喰いたちが降ってきて襲いかかる。
「くそっ…!」
ハマとも、他の仲間とも分断され、武器を仕舞ったエルザは『Love&Peace号』とは反対方向へ走り出す。周囲には無数の敵の気配を感じる。
湿った落ち葉や朽ちかけた倒木、茂る雑草に足を取られながらエルザは走る。
不意に、物凄い勢いの水の気配を感じる。それと同時にエルザの身体が宙を浮いた。
「う…わぁぁぁっ!」
バシャァァン…!
森の中を流れる大きく急な川の流れ。エルザはそれに巻き込まれ目の前が真っ暗になった。

《 ケルメス村付近、深緑の森内、何処かの河原 》
流れる水の音と、火にくべられた木がはぜる音が聞こえる。
ぼんやりとした暗闇が、真ん中から徐々にピンボケの風景に変化していく。
その風景の中に、自分を見つめる何者かの姿を認めた。
「誰…だ…?」
身体じゅうに少しずつ感覚が戻ってくる。身体が濡れ、色々な部分が痛むのが分かる。身体を動かそうとしたらこの前ようやく包帯が外れた胸の辺りがズキズキ痛んだ。
「む、無理して動いちゃダメですっ」
ようやく元通りになった聴覚が子どもの高い声を感じ取り、視覚が声の主の姿を捉える。
顔立ちを見ると少女かとも思われたが、どうやら少年らしい。年の頃は10歳行っているかいないかといった所だろう。ふわふわとした胡桃色の髪の毛。まるで幼い獣のような可愛らしい頭の両横からは、まごう事無き獣耳が生えていた。
『キツネの半獣人でね、耳がキツネ耳で尻尾が生えてて…』
『見た目は子供だけど…』
このみが言っていた事を思い出しつつ、身体を支えられたエルザは子どもに尋ねた。
「…ことば…殿か?水の戦士の…」
「ふぇ!?」
驚いた、というか戸惑って思わず出たといった様子の声に、目線をちらりと遣ると、子どもの両耳がぴん!と立っているのが見えた。
「そう、です…でも、な、何で…」
言いかけ、はっとしたような表情を浮かべる。子どもは警戒を強くしたようだった。
「ひょっとして『螺旋の民』の…」
「ことば、その人は大丈夫」
背後から響いた声にエルザがそちらを向く。燈の国の紋章が入った銀鎧。鉄紺の髪をポニーテールにした、見覚えのある女戦士―
「スノーホワイト…!」
久しぶりに会った友人は、何ら変わりない笑顔を浮かべたままエルザの方へやってきた。そしてことばの横で片膝をついた。
「この人は私の友人だから。大丈夫」
「そ、そうなんですか…ごめんなさいっ!あああのっ、ぼく、ことばです」
ぺこん!と音が鳴りそうな勢いでことばが頭を下げ、エルザが慌ててそれを止めた。
「いや!すまなかった…戸惑わせてしまって。貴方をずっと探していたので、つい…」
その様子を笑って眺めていたスノーホワイトが、ことばから身体を支える役を変わりながらエルザに尋ねる。
「久しぶり、エルザ…あなた何でこんな所に居るの?赤の国からここまでは随分…ひょっとして、赤の国でも何か起こったの?」
「…『も』?燈の国でも何か起こったのか?スノー…燈の国も此処からは随分遠いはずだ。それに何故、五戦士のことば殿と行動を共にしているのか…」
スノーホワイトは「しまった」という表情を微かに浮かべ、エルザの真横にしゃがみこんでいたことばがスノーホワイトの方を見る。エルザはもう、尋ねずにはいられなかった。
「先程も言ったが、我々は、ずっと水の戦士…ことば殿を探していた。その中で『脳喰い喰い』の噂をさんざ聞いた。…スノー、無礼は百も承知で貴殿に確認したい。…貴女は脳喰いなのか?」
エルザとスノーホワイトはしばらく互いを見つめ合う。ことばは2人の様子をじっと見つめている。やがてスノーホワイトが1つ小さく息を吐いた。
「…端的に質問に答えるなら、イエスよ。今の私は脳喰い」
少しばかり早口にスノーホワイトは答え、エルザは真実に一瞬声を失う。少し黙って、迷いなく口を開いた。
「…全く変わってないな。スノーホワイト…安心した。会えて嬉しいよ」
少し寂しげだった友人の目線が変わる。彼女はエルザの台詞に安心したようだった。しかし、一番安心した様子を見せたのは2人の横でじっと話を聞いていたことばだった。泣きそうだったその表情に、分かりやすくぱっと笑顔が浮かんだ。

《 ケルメス村付近、深緑の森内 》
似つかわしくない。ハマが彼女たちに感じた第1の印象はまさに「それ」であった。
脳喰いたちは全て倒し、行方不明のエルザをフレイシアと人夢、ベルフェ・このみ・ハマと二手に分かれて捜索をしていた時だった。ハマは森の中で2人の少女に出会った。
明らかに村の人間では無い。その格好が物語っていた。
片方の少女―というか、そんなに年齢は変わらないだろう。かなり長い黒髪ツインテールで、かなり大きな町で若い女性の間で流行っているニットボーダーのワンピース姿だ。彼女と手を繋いだ、それよりも幼い様子の少女はシンプルな白いワンピース姿だが高貴そうな少女であった。不意に目があって、釣り目がちの攻撃的な赤い瞳とうすぼんやりとしたオレンジの瞳に見つめられ、ハマは思わずぞくりとした。
「キミが今探している人は、キミが少し前に探していた人といっしょに居る」
「―え」
人形めいた少女が口を開く。妙に飄々とした口調だ。戸惑うハマを尻目に少女たちはほぼ同時に微笑む。
「早く助けてあげないと、どうなっても知らないよ」
「ちょ、何を言って…」
「キミは今回、唯一明確なroleを持っていないのだから。しっかりしてくれ」
「ハマ、何やってんだ?」
肩にポン、と手が置かれた。ハッとして振り向くとツォルンが呆れ顔でこちらを見ていた。このみも「どうしたの?」と近寄ってくる。
「あ、いやその…彼女た…」
もう一度目線を元に戻すと、2人の少女たちは忽然と姿を消していた。

《 ケルメス村付近、深緑の森内、何処かの河原 》
水の落ちたはずの自分の身体があまり濡れていない。たき火の前に座ってはっと気が付いたエルザが不思議そうにシャツを触っているのを見て、スノーホワイトがいたずらっぽく笑う。
「ことばの魔法ね」
「魔法…」
「水の戦士は魔法使い。…お爺ちゃんじゃなかったけど、ことばは確かに凄い魔法使いよ。私も何度救われたか分からない」
スノーホワイトの言葉とほぼ同時に、姿が見えなかったことばがよろよろとこちらへやって来た。見覚えのあるものを抱えている。エルザの前までやってきたことばの耳はぺたん、と垂れていて、申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「あの…これ、お返ししますっ!」
「私のレザーアーマーか…」
「あの…ら、『螺旋の民』のひとだと、危ないなって思って…」
半泣きのことばから受け取ったレザーアーマーも、服同様乾いていた。エルザは慣れない微笑みを浮かべて、ことばの頭を撫でかけたが流石にそれはまずいだろうと思い、頭を下げた。
「感謝する。無くなってしまったものと思っていたからな」
「え、あ、あの…いえ…ごめんなさい…」
どう反応して良いか分からなかったらしい。しかしエルザが怒っていない様子を認めほっとしたようだった。大きな本を大切そうに抱きながら少し離れた場所で体育座りをする。ことばが座ったのを確かめて、スノーホワイトが口を開いた。
「燈の国で起こった事は…ひとことで言うと『国の乗っ取り』よ。それも脳喰いによる…」
「脳喰いによる国の乗っ取り!?そんな有り得―」
有り得ない、と言いかけたエルザだったが、赤の国で起こった事がまさしくそれであったと気付き、言葉を失う。スノーホワイトは固い表情で話を進めた。
「きっかけは『螺旋の虐殺』よ」
「…先住民族『螺旋族』の土地を吸収するため前々王が行った無差別虐殺…だったな」
「最終的に彼らは戦意を失い、土地ごと燈の国に吸収された。…私個人としては、この所業は許されないと思っているわ。そして…彼らも全く同じように考えていた」
スノーホワイトはひと呼吸置いて、話を続けた。
「吸収されてちょうど50年の今年彼らは燈の国に反旗を翻した。『螺旋の民』という過激な民族組織を作り、全ての『螺旋族』がヒューマン型脳喰いとなって…彼らを裏で操っていたのは教祖のブレイン・ウォッチ、そして救世主ホォリィと呼ばれる少年…」
「救世主ホォリィ…『螺旋の民』…!」
これまで何度も聞いてきた言葉。まさかここでその言葉を聞くことになるとは…
「ヒューマン型は脳喰いを操り、救世主ホォリィは人間をヒューマン型脳喰いにすることが出来た…彼らが反乱を起こした瞬間に、燈の国はほぼ制圧されてしまった。王族は末娘の『眠り姫』様以外全員が殺され、我々騎士団も殺されるか…捕まり、脳喰いにされた」
「脳喰いに『された』…?」
「『核』というものを埋め込まれたわ。私は心臓の辺りだった…それを埋め込まれて副作用…激痛に耐えきったら脳喰いになるの。私以外は『螺旋の民』側につくか副作用に負けた」
「核」という言葉を聞いた瞬間に不安が首をもたげた。どこかで似たような事を聞いた覚えがある。
「燈の国は今…どうなっているんだ?」
「…事実上『螺旋の民』に支配されている。ホォリィと五柱…特に強い5人のヒューマン型の事なんだけど、五柱が別の場所に行っている間に反乱しようとしたけれど途中でばれてね…脳喰いけしかけられた時はもう駄目かと思ったけど、ことばが助けてくれた」
突如出てきた自分の名前にことばが「ふぇ!?」と驚いた声を上げる。
「だ、だって…あんなにたくさんの脳喰いに囲まれてて…えっと…身体が動いて…」
「ことばも最近の脳喰いの動きがおかしいって追いかけていて最終的に燈の国に辿り付いたそうよ。2人で話し合って、この人数じゃあ太刀打ちできない。まずは外堀から埋めていこうと決めたの」
「それで…『脳喰い』を倒しまわっていたのか…」
「エルザ。さっき救世主ホォリィと『螺旋の民』に反応したけどそれは?」
問い返され、エルザはこれまでの経緯を2人に語った。赤の国で起こった事、五戦士を探す中で浮かんできた2つの言葉―救世主ホォリィと『螺旋の民』。
「赤の国にホォリィと五柱が居る可能性があるわね…エルザや他の五戦士を連れて行こうとしたのでしょう?赤の国に」
スノーホワイトの推測にエルザは頷いた。
「あの…」
その時、ずっと黙っていたことばが小さく声を上げた。2人分の目線が向かう。恐る恐る、という風体でことばがずっと考えていたらしい意見を述べた。
「あの…居る場所がわかるなら、その脳喰いさんを先にやっつけたほうが、いいと…思います。救世主の脳喰いさんを倒せれば…」
「もっと燈の国を奪還しやすくなる?」
スノーホワイトが続けて、ことばが頷く。
「ぼくとマウリッツさん以外、みんなそろってて…このみお兄ちゃんが居るのなら、きっとマウリッツさんもすぐ見つかる…て思います。脳喰いさんを生み出す脳喰いさんは、五戦士ひとりでたおすのは…むずかしいです」
ぽつりぽつり、と述べられたことばの意見をゆっくりと咀嚼して、エルザとスノーホワイトが導き出した答えは同じだった。
「…先に赤の国で救世主ホォリィを倒し、赤の国を奪還し―」
「その後、混乱に陥っているはずの燈の国を奪取する…!」

《 ケルメス村付近、深緑の森内のどこか 》
茂りすぎて夕方のような暗さの森の中。歌うような少女の声が響く。
「あーあぁ。選んじゃった」
全然残念そうではない声色でハマが出会ったツインテールの少女が呟く。何かに腰掛け、足をぶらぶらとさせながら、彼女は歌うように続けた。
「スノーは駄目な道を選んじゃった」
「しょうがないさ。彼女にはその道しか無かったのだからね…」
彼女と少し離れ、背中合わせにもう1人の少女がいる。しかしその言葉は彼女の口から出たものではない。その背後からぬっ…と怪しげな男が姿を現す。小鳥でも乗せるように両肩に少女たちを座らせた男は愛おしげにツインテールの少女を見つめた。
「ねぇブレイン、あいつ壊しちゃっていいでしょ?ねぇ」
「ああシャルル。ただ殺すだけで許してやれるなんてキミは優しい…しかし裏切り者の彼女には『ただの死』は生ぬるいのだよ」
シャルルと呼ばれた少女は少し不満げな表情を浮かべる。男、ブレインは次にシャルルとは逆の肩に座った少女を見つめる。
「さぁキティ。行っておいで。『裏切りには、制裁を』」
少女はふわり、と浮かび上がるとそのまま暗闇に姿を消した。シャルルを肩から腕の中に移したブレインは相変わらず微笑みを浮かべている。そして小さく呟いた。
「そして…彼は主君を救う事はできるかな?」

《 ケルメス村付近、深緑の森内、何処かの河原 》
「…私も付いて行って大丈夫なの?」
『Love&Peace号』の仲間たちと合流しようと立ち上がった時に、たき火を消すためにしゃがみ込んでいたスノーホワイトが、俯き加減に少し不安そうに尋ねた。
「私はその…一応、脳喰いだし…」
「今更何を言っているんだ」
変な所で生真面目な親友にエルザが苦笑いを浮かべた。ことばは「だいじょうぶですっ!」とスノーホワイトに笑いかけた。
「スノーホワイトさんは悪い脳喰いさんじゃないです。みんな分かってくれます」
「それに脳喰いといっても性質は全然変わってないじゃないか…ほら」
エルザがスノーホワイトに手を差し出す。
「行こう。スノー…我々の国を救いに」
エルザの言葉にスノーホワイトが微笑む。大きく頷いて自分の手を差し出そうとした―
「そこまで」
聞き覚えのある乾いた音がした。それと同時に、目の前の親友が後ろ向きにゆっくりと倒れていくのが見えた。手を伸ばそうとした。ことばがタックルしてきてそれを阻んだ。打ち抜かれた胸の中央から氷の棘を伸ばしながら、スノーホワイトの唇が動いた。
ニゲテ…!
どこからともなく現れた白いワンピースの少女が「やれやれ」といった様子で、棘に捕らわれたスノーホワイトに語りかける。
「『裏切りには、制裁を』…スノーホワイト、キミには、キミにとって死よりも残酷な生を与えよう―『螺旋の民』教祖にして土の五柱、ブレイン・ウォッチの名において」
「止め―!」
ことばに押し倒され尻餅をついていたエルザが制止を振り切り立ち上がる。しかし、遅かった。少女の手がスノーホワイトの心臓のあたり―彼女が『核』を埋め込まれたといった辺りに当てられた。次の瞬間、スノーホワイトの身体が火柱に包まれた。
「スノーホワイトっ!」
女の悲鳴のような耳障りな声。ああ―自分のものだ…!
「Good night『白雪の娘』そしてGood morning…『炎の戦士』」
「ああ―ダメ…!そんな…ひどいよ…!」
ぺたん、と尻餅をついたことばが湿った声で叫ぶ。
銀鎧を身にまといロングソードを構えた「人型のモノ」。かつてスノーホワイトと呼ばれていた女騎士の面影はもうそこに無かった。エルザは茫然とそれを見やり、ことばはぼろぼろと涙を落とした。少女はそれに耳打ちすると花のような微笑みをエルザとことばに向かって浮かべ、空中にかき消えた。同時にロングソードの切っ先が2人に向かう。ハッと気が付いたエルザが、座り込むことばの身体を抱えて横に転がる。
キィン!
僅かに前、2人が居た場所に向かってロングソードが振り下ろされる。金属が石にぶつかり、高い音を出す。頭のような火の玉が、ゆっくりと2人の姿を捉える。
「くっ!」
戦士の動きは早い。膝立ちの状態でエルザがバトルアックスを取り出し、振り下ろされたロングソードを柄で何とか受け止める。
「ことば殿…これは…」
数日前にブルージュ小国で見たあの脳喰いの変化と同じだとすればもう聞くまでもないかもしれなかったが。ことばは詰まり詰まり答えた。
「ぼ、暴走です…もうスノーホワイトさん、は…元には…」
「そうか…ハァッ!」
気合でロングソードを押しやった勢いのままエルザが立ち上がる。そして、背後のことばへ振り向かないまま声をかけた。
「ことば殿…頼む。スノーホワイトを…!」
エルザの振ったバトルアックスの刃が銀鎧に当たる。思わず声を上げかけたことばに、エルザは絞り出すように叫んだ。
「倒してやってくれ…!」

《 ケルメス村付近、深緑の森内 》
「ヤバいよ…!大変だ…!」
ハマとベルフェ、そして合流したフレイシアと人夢の目線を背に受けつつこのみがばっ、と振り返った。
「すごい…すごく強い脳喰いの気配が…多分『誰か』と戦ってる」
「その『誰か』がエルザかもしれないって?」
フレイシアが「相変らずね」とため息を吐きながら尋ね、このみが頷いた。
「それと五戦士の気配がする…でも、ずっと止まってる感じなんだ…戦ってない…」
「とにかく、行かないとどうしようもないだろう。どこに居るんだ?」
ツォルンが不安そうなハマに声をかける。
「大丈夫…ですか?」
「あ、はい」
表面上はそう言いつつも、ハマは先刻の少女の言葉が忘れられない。

《 ケルメス村付近、深緑の森内、何処かの河原 》
普通の人間が脳喰いを倒すことは出来ない。そんな事はエルザも分かっている。だからこそもどかしいのだ。かつて友人だったものの暴走を止められないのが。彼女に致命傷を与えることができるのは…自分の背の向こうに居ることばだけだ。
「ことば殿早く!」
「でも…」
「私が気を引いている間に、一発で留めを指してやって欲しい」
「…嫌…」
戦士の早いながらも単調な攻撃を避けながらエルザが振り返る。そして、泣きそうな表情のことばの顔を見つめ思わず一喝した。
「この姿が本望だと思われるかッ!?」
ことばがはっとした表情を浮かべる。ロングソードを避けながら、エルザは続けた。
「自分の意思を失い!敵に操られ!燈の国の戦士の誇りも何もかも失い!ただ生き続ける事が本望だとっ!ことば殿はそう思われるか!?」
感情が昂ぶったエルザは敵に背を向けていた。そして敵はそのミスを見落とさなかった。エルザの背後で戦士の頭の部分がむくむくと膨らんでいく。頭は身体の他の部分まで全て吸い取っていく。ガラン、と鎧が地面に落ちる音で流石にエルザも気が付いたが遅かった。
ゴォォォォォッ!
巨大な火の玉がエルザの顔面向かって炎を吹く。エルザはそれを茫然と見やる。その頬にひやりとするものが少し掠めた。激しい水蒸気に包まれ一瞬視界がゼロになる。水蒸気が晴れた時、自分の目の前にことばが居た。左手に持った開かれた本は薄ぼんやりと光っている。振り返ったことばの瞳は闇のような黒色だ。
「ことば殿…!」
ギッ!と目の前の火の玉に向き返り右手をかざす。ことばの全身が黒い光を放つのに呼応して火の玉の中央が輝き始める。
「ぜったい、まもります…!エルザさんも、スノーさんの『ほこり』も」
幼い声で、それでも確固たる強い意志を感じる声で、ことばが宣言する。
同時に、空中に現れた巨大な水の球が浮かび上がった。
「ああ―日食のようだ」
水の球が火の玉を呑み込んだ瞬間、火の玉が一閃煌めいた時、エルザは不意に思った。
急速に冷やされた火の玉は、それに耐え切れずパァン!と爆ぜた。
全てを見届けたことばの身体がエルザの方へ倒れこんでくる。慌てて抱き留めるとどうやら眠ってしまっているようだった。その瞳からつぅと涙が一筋こぼれた。

《 ケルメス村付近、深緑の森内、『LOVE&PEACE号』車外 》
パチパチとたき火の音が響く。外で脳喰い等の番をしていたこのみが振り返ると『LOVE&PEACE号』の入口近くにエルザが立っていた。
スノーホワイトだった脳喰いを倒してしばらく経った後、ベルフェの瞬間移動能力を使って一行が追いついた。エルザは川辺に、ことばを抱いたままじっと座っていた。
「エルザくん…眠れない?」
「ああ…」
このみから少し離れ、たき火の近くに座ったエルザはレザーアーマーを脱ぎ、軽装だった。
しばらく黙っていた2人だったが、やがてエルザが口を開く。
「違和感が…ずっとあったのだが」
「い…違和感?」
固い口調にこのみがびくっとする。エルザは顔を上げ、緊張したようにこのみを見つめた。
「ベルフェ殿に以前聞いたのだが、五戦士は『核』が見えるのだろう?だから脳喰いが倒せる…」
このみが頷き、エルザが続ける。
「今日スノーホワイトと再会した。彼女も身体に『核』を持ち、脳喰いを倒し…敵の手の内に入った瞬間、ただの脳喰いになった…」
ひときわ太い薪がバキンと爆ぜる音がした。
「このみ殿…『五戦士』は何故『核』を見ることができるのだ?もしかして…『五戦士』の力は、スノーのように暴走してしまう危険を持っているのではないか?」
少し大きな炎が起こり、エルザの瞳に映った。
このみはふっと無表情になりその後微笑んだ。今までに見たことがないような微笑みだ。決してにらみ合いでは無かった。しかし2人はにらみ合いと同じような緊張感で向かい合っていた。やがて、このみが口を開いた。
「もし―『そうだよ』って言ったら、どうする?エルザくんは」


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コメント 2

バビロン

緊張な一話ですね…
エルザくんとことばちゃんとスノーちゃんの誇りの戦いの場面は少しうるっとしました(つд;*)
ハマも何かあるみたいですし… わくわくです。
久々に読めて嬉しいです。
続き待ってます(o・ω・o)
by バビロン (2012-02-18 23:06) 

ひちゃこ

こんにちは!更新お疲れ様でした!
ケータイから失礼しますっ。
ナイスはしていたものの、コメントがなかなか出来ませんでした(汗

五ノ話でうちの子が登場、ということでいつもよりテンションが上がっていますww
実は1話から何回も読み直しておりますっ
atomaさんのかかれる小説は1話1話読みごたえがあり、読んでいてとても楽しいです^^

螺旋の民の方々も登場し、今後の展開にわくわくしております!皆さんかっこよすぎて///
スノーホワイトちゃん、暴走で自分の意思を失い、悲しい最期でしたが「ほこり」はしっかり守れたでしょうね…!
ラストのこのみ君の台詞の続きもものすごく気になっておりますw

そしてキャラクター紹介のところももう一度拝見しました!何気に妹のことも書いてあり、嬉しかったです^^
ことばは戦士になってからは不老不死、けど妹達は違うのですよね…ということはことばは見た目的に、いつのまにか「弟」になりやがては…。他のお子様方もそういう体験をされてるのかな…。と妄想をふくらませております(


…これ以上書いてると止まらないので大人しくします(汗
それでは次回の更新も楽しみにしております!
by ひちゃこ (2012-02-20 03:08) 

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